俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 人の波をすり抜けて、お目当てのカフェに到着した。
 幸い席に余裕があり、すぐに案内される。壁を背にして座った梓の向かいに、私もそっと腰を下ろした。

 それほど待たないうちに、オーダーしたホットコーヒーが届けられる。口にする前に、まずは両手でカップを包み込んだ。
 十一月に入って、日に日に寒さが増している。たとえ室内で過ごしていても、指先が冷えるのが悩みだ。
 陶器から心地よい熱がじわじわと伝わり、強張っていた体が少しずつ解れていく。

 それからようやくコーヒーを口に含んでほっとしていると、待っていたかのように梓が口を開いた。

「少し前に、妹の結婚が決まったのよ」

 アラサー独身女子にとってはなかなかヘビーな一撃に、手もとに落としていた視線を上げる。
 そう告げた彼女自身は、神妙な顔をしていた。

「それは、おめでとう。たしか、梓の三歳下だったよね?」

 つまりまだ二十五歳だ。その年齢のとき、自分は結婚なんて考えてもいなかった。

 私の問いかけに笑みを浮かべてうなずいた梓は、それからわずかに表情を曇らせた。妹の結婚は祝福しているけれど、でもね、と不満もあるのだろう。

「ありがとう……って、それで終わればいいんだけどね」

 苦笑した彼女の心中は、嫌でも察しがついた。

「梓はまだか、っていう話ね?」

 そうだと、ため息まじりの肯定が返ってくる。

「うちの親って、ちょっと古風なところがあるの。妹の方が先に嫁ぐなんてって、これまで以上にうるさくなったのよ。母なんて、いい人がいないかご近所さんとか親戚中に声をかけているらしいよ」

「らしいよって、ずいぶん他人事なんだから」

 どうでもよさそうな彼女に、苦笑いで返す。

「面倒だから、母からの連絡は今のところ全部無視してる。私はまだ、結婚なんてする気がないもの」

「わかるよ、わかる」

 わざと大げさな動作で数回うなずく。

 年齢的には結婚は気になるものの、今は仕事を優先したい気持ちの方が強い。そんな心の揺れを両親に理解してもらうのは難しいのだと、私も身をもって知っている。
< 5 / 110 >

この作品をシェア

pagetop