俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 かなり鬱憤が溜まっているようで、梓の愚痴は止まらない。

「うちは、ほかにきょうだいがいないし。妹は嫁いでいったから、私には婿をもらって欲しいみたい。水沢家の跡継ぎがどうとか言ってるけど、少なくとも私はあと三年くらい仕事に専念したいのに」

 私も同じ考えだと、もう一度大きくうなずく。

〝三年〟に、明確な理由やなにか根拠があるわけではないだろう。今よりもっと頼られる人材になるためには少しでも多くの経験を積みたいという意味で、私も同感だ。

 いつも込み合うこのカフェは、私たちが話している間にも頻繁に客が入れ替わっている。近くの席で人の動く気配を何度か感じつつ、梓との会話を続けた。

「うちは兄が結婚して子どももいるから、そこまでうるさくないかな。でも、たまに思い出したように結婚をせっついてくるの」

 こちらも同じようなものだと、現状を嘆く。話しているうちに不満が大きくなり、眉間にしわを寄せた。
 両親にとっては、適齢期の娘に浮いた話のひとつもない状態はかなり心配らしい。
 つい先日も、いい人はまだできないのかと母親から探られたばかりだ。しかも、近所に住む私より一学年下の娘さんはもう二人目を妊娠中だという情報つきで。その子を知っているだけに、自分はまだ無縁の話だと言いつつもダメージは受ける。周囲においていかれるような気になってしまう。

 私が交際相手はいないと正直に答えようものなら、それを待っていたとばかりにお見合い話をにおわせてくる。
 そうなるのが面倒だからと、どうとでもとれるような曖昧な言い方をすれば変な期待を抱かせかねない。

 何不自由なく育ててもらっておいて薄情だけれど、正直に言えばこういう話をする母親を相手にするのは面倒だ。あまりのしつこさに、結局は仕事に専念したいからという理由を白状する。

『仕事もいいけれど、出会いも大事よ』

 二十代前半で結婚した母は、それから『もう若くないんだから』とまで言う。悪気のないそのひと言に、何度心を抉られたことか。

「仕事はやりがいがあるし、ひとりで暮らすには十分な給料をもらってる。そうなると、結婚したいっていう気持ちがなかなかわき起こらないっていうか。これっていうメリットがあれば、迷ったりするのかな。ねえ、梓」

 決して母親に対しての八つ当たりではないし、開き直りでもない。私の本心だ。
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