俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 約束の当日の昼過ぎ。今日はなにを着て行けばいいのか、クローゼットを開けて頭を悩ませていた。

 ここへは、手持ちの中でも見映えのよい私服を選んで持ち込んでいる。翔さんが不在のときだって、自宅で着ていたような完全に気を抜いた恰好はしない。

 今夜はディナーに誘われている。翔さんからはとくになにも言われていないものの、彼に恥をかかせないためにもそれなりに着飾っていきたい。

 こんなことなら、休みの日にショッピングに出かけて服を探しておけばよかったと嘆いても今さら遅い。
 デートのために、何日も前から準備をしておく。そんな感覚が、私からすっかり抜け落ちていた。

「どうしよう……」

 せめて午前中に買いに出られたらよかったが、在宅していた翔さんにそれを悟られるのもなんだか嫌だと見栄を張ったせいで今、困った事態になっている。

 さすがの私も、通勤時と同じ服装で行くのはダメだと思っている。
 それならこれはどうかと高価だったワンピースを手に取ったが、華やかさに欠ける気がして即断できず。

 なにかないかと探しても、思うものは見つからない。手持ちのアクセサリーやジャケットなど小物を駆使して……と苦し紛れに組み合わせを考えて、これでいいかと妥協で決定しかけていたところでノックの音が響いた。

「真由香、ちょっといいか」

 散らかしてあった服を慌てて戻し、「どうぞ」と声をかける。

 自身のスーツを片づけに来たのか、翔さんはガーメントバッグを手にしていた。

「ほら、プレゼントだ」
「え?」

 すぐに反応できないでいると、翔さんがファスナーを開けていく。
 中から出てきたのは、淡いスモークグレーのドレスだった。
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