俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 いかにも恋愛から遠ざかっていることを感じさせる私の言い分に、今度は梓が苦笑しながら続けた。

「まあ、その通りよね。よほど包容力があってこの仕事を理解してくれる人でもない限り、結婚は無理だわ」

「結婚後も働きたいっていうのは、必要最低限の条件。ここまで言っておいて、そもそも相手がいないっていう問題があるんだけど」

 梓も私もフリーなのはお互いに知っているし、ふたりともそれを苦にしているわけでもない。
 もとから相手を求めていないのだから、出会いがあるはずがない。
 両親にはもうしばらくの間そっとしておいてほしいと思いながら、勤務時間が不規則な今の仕事を続けていて出会いはあるのかと考える。

 空の安全を守る管制官には、小さなミスも許されない。常に緊張を強いられるハードな仕事だ。
 勤務形態はシフト制で、早番と遅番だけでなく夜勤だってある。そのサイクルに慣れるのは大変だったものの、辞めたくなったことは一度もない。

 代わりにというわけではないが、誰かと交際する時間を満足に捻出できないのは事実。
 けれど私は、それを不満には感じていない。万が一想い合う人ができたとしても、将来的に仕事を辞めてほしいなんて言われたら、今の私は間違いなく交際をあきらめるだろう。

「私たちには、お耳の恋人がいれば十分なのよ」

 茶目っ気たっぷりに言い放った梓に、つい噴き出した。

「そうそう。なかなか魅力的な声をしている人がたくさんいるしね!」

 梓の調子に乗せられて、私もいたずらに返す。

 無線機を通して聞こえてくるパイロットたちの声質は様々だ。中には自分好みのテノールで、聞き心地のよい声の持ち主もいる。
 ほんの短いやりとりで、内容も業務連絡しかしていない。相手の顔なんて当然わからないし、年齢も不明だ。
それでも理想的な声に出会えると、密かに気分が高揚した。
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