俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「真由香」

 立ち上がった翔さんは、私の頭の先から足の先まで視線を数回往復させた。

「綺麗だ。俺のためにいつも以上に着飾ってくれたと思うと、たまらない」

 この人の真っすぐなところは、意地悪でなくて本音なら美徳なのだろう。今はどちらか判別がつかないけれど、何度経験しても慣れることはない。

「あ、あの」

 そろそろ出発しようかというところで、私から声をかける。緊張で上ずってしまい、どうしたのかと翔さんが首を傾げた。

「そ、その、私も翔さんにプレゼントを用意したんです。でも、そんなに大したものじゃなくて」

ドレスに靴にバッグに。彼がくれたものと自分の用意したものを比べて、どんどん自信がなくなっていく。

「だから……」

 後になればなるほど差し出すにはハードルが上がっていきそうで、出かけのこのタイミングで切りだした。

 なかなか動きだせない私の顔に、翔さんが手を添える。そうして、うつむきがちだった顔を上げるように促した。
 おずおずと彼へ視線を向けると、翔さんは優しい表情で私を見つめていた。

「そんな必要はないのにと、言うべきなんだろうが。真由香が俺のことを考えて選んだという事実がうれしすぎる」
「え?」

 笑みを深めた翔さんに目を見張る。
 そんな言い方をされたら、勘違いで浮かれてしまいそうだ。

「ほら、出して」

 催促するように、片手をこちらに差し出してくる。

「些細なものだけど」

 期待に満ちた視線負けて、後ろ手に持っていたショッパーからプレゼントを取り出した。

「開けてもいい?」
「どうぞ」

 包装紙を丁寧に開いていく彼に、言いわけするように話し続ける

「その、贅沢すぎる暮らしをさせてもらっている上に、指輪や今日の服まで……それなのに、私が用意したのはほんのちょっとしたお返しで」

 プレゼントとして選んだのは二本のネクタイだ。ひとつは濃紺にシルバーのストライプが斜めに入っているもので、もう一本は落ち着いたライトグレー。ヘリンボーン柄で、フォーマルな場でも着用できる。
 ネクタイを取り出した翔さんは、一本ずつ手に取って確認する。その口角が上を向いているから、ひとまずほっとした。
< 64 / 110 >

この作品をシェア

pagetop