俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「――それで、相手がいるっていう感じで母に仄めかしたんです」

 数日前のこと。もうすぐクリスマスというタイミングに乗じて、誰とどう過ごすのかと母が探りの電話をかけてきた。
 ここで仕事だなんて正直に話そうものなら、いつになったら相手ができるのかとか、話が長くなっていただろう。これまでの経験上、しまいにはまるで説教を受けている気分にさせられて精神的にまいっていたはず。

 でも今回は例年と違い、イブは男性と食事に行く約束がある。
 娘の久しぶりに浮いた話に、母から根掘り葉掘り聞かれるのは想定内。面倒になる前に、こちらから「職場関係の男性に誘われて」と打ち明けた。

 交際していると、明言はしていない。けれど母は、これから関係が始まりそうだと思ったはず。そこに罪悪感はあったが、食事に行くだけだからと濁した。
 比較的早く通話を終えられそうだと、安堵しかけたそのとき。『近いうちに紹介してもらえるのかしら?』と言われて、ギクリと体が強張った。

 そんな私たち親子の話を、翔さんに聞かせた。 

「なんだ。都合がつけばいつでも挨拶に行くのに」
「さすがに、それは……」

 いろいろ考えたけれど、やっぱりこれ以上踏み込んではいけない気がする。
 決してなにも名言せず、事実をそれらしく話すので精いっぱいだ。

「俺の方も、とくにこの時季は女性から声をかけられることが多かったが、今年はほとんどなくて助かったよ。真由香のおかげで、仕事に専念できている」

 役に立てているようでほっとしつつ、〝ほとんど〟という言葉に嫉妬のような暗い感情を抱きそうになる。翔さんが既婚者だろうとわかっていてもなお、声をかける女性はいるのだ。

「それは、よかったです」

 食事を終えて席を立つ。ここへ連れて来てくれたお礼を言いながら、車に乗り込んだ。

 幸せな一夜はあっという間に終わってしまい、日常へ戻っていく。
 クリスマスイブに食事をするという特別な時間を過ごしても、ふたりの関係はなにも変わらない。お互いに仕事をがんばって、家庭内限定で彼に甘やかされる。

 私だけがドキドキさせられて、言えない想いを募らせていく。それが少し苦しくて、でもどうすることもできないでいた。



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