俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 年が明けてしばらく経った頃。仕事上がりに梓に誘われて、食事をしながら新たな噂を聞かされていた。

「それでね、椎名さんは実は結婚していないんじゃないかって話よ」

 遅番だったため、すでに二十三時を過ぎている。そろそろ解散かという雰囲気だったが、ドキッとして座り直した。
 どこかから、私たちの関係がバレたのか。不安になって、首から下げた指輪に服の上から触れた。

「なんでも椎名さん、年末頃からCAの牧村さんと親密にしているみたいなの」
「え? それ、本当に?」

 動揺を隠して、驚いた顔をしてみせる。
 わざとらしかったかもしれないが、目の前の梓に疑う様子はない。逆に私が興味を抱いたと、得意そうな顔をした。

 それから彼女は、誰かに聞かれていないかと確かめるように周囲を見回した。椎名さんとの一件で、すっかり癖づいた習慣だ。

「そもそも彼は、前から牧村さんと付き合っていたらしいの」

 少し前かがみになった梓が、声を潜めて言う。
 そんな話、翔さんはひと言もしていなかった。

「真由香、牧村さんはわかる?」
「見かけたことはあるよ。すごく綺麗な人よね? ただ、詳しい人となりは知らないなあ」

 勤め先が同じ空港だといっても、顔を合わせる機会は滅多にない。彼女が美人で有名だからこそ知っていただけだ。

「牧村さんって、とにかくモテるのよ。担当した便に乗り合わせたスポーツ選手とかタレントに声をかけられたっていう話も、一度や二度じゃないらしいの。真偽のほどは定かじゃないけど、実際にプライベートで会っているっていう話もちらほら聞くし」

 たしかに、彼女ならありうるかもしれない。そう信じられてしまうほど、牧村さんは綺麗な人だ。
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