俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
「乗客で、しかも有名な人ってなったら、誘われたときの断り方も気を使うじゃない?」
「まあ、そうかもね」

 梓の言葉に同意はしたものの、私とは無縁の世界すぎて想像が難しい。ただ名前の知られた人が相手だと、少しのことでも注目を集めていそうだ。

「牧村さんとしては。その場では曖昧な感じで流して後からちゃんと断っていたらしいの。でも、ふたりで会っていたんじゃないかって椎名さんが勘違いしちゃったみたい。だから、当てつけのようにほかの女性と結婚したなんて嘘を流してるって。そうやって牧村さんの気を引きたいのかもねっていうのが、ここ数日空港内を賑わせている噂よ」

 あの翔さんが、そんな恋に盲目になるようなことがあるだろうか。

 彼ならほかの女性との関係を仄めかすより、よそ見をさせないように本命にぐいぐい迫っていくような気がする。

 私にはとても信じられない話だが、こうして梓の耳にも入るくらい広まっているのなら、それなりに真実味があるのだろうか。

「なんとなく椎名さんの印象と噂で聞く言動がずれてる気がするんだけど、誰でも、恋愛感情が絡むととんでもないことをやらかしちゃうものなのかもしれないね」

 梓が腑に落ちないという顔をしながら言う。

 翔さんは、今日から国際線のフライトで海外に行っている。フライト先に数日滞在してからの帰国になる。
 私が梓から噂話を聞くのは時差があることが多いため、翔さんと牧村さんの話もおそらくもう少し前からささやかれていたのかもしれない。
 そうだとしたら、出発より前にこの話は翔さんの耳にも入っていた可能性がある。

 私になにひとつ話していないのは、単に時間がなかったからなのか。それとも彼が噂話を気にしない人なのか。
 考えたくはないけれど、私とは偽りの関係なのだから言うまでもないと思っていたなんて想像して、息苦しくなってくる。

「なんだかんだいって、牧村さんと椎名さんって美男美女でお似合いじゃない? もう嫉妬するのもおこがましいって感じで。それもあってCAの間では、牧村さんに同情する声も出ているみたい」

 どこまでが事実なのかはわからない。
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