俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 一緒にいる間は一度も感じたこともない女性の存在に、胸がズキズキと痛みだす。

 私か翔さんのどちらかに、好きな人ができたらこの偽りの関係は終わるのだろう。
 不明確だったゴールが急に目の前に迫ってきたようで、どうしていいのかわからなくなる。

 どれだけ甘く迫られ愛の言葉をささやかれていても、それは翔さんの本心ではない。彼が私を好きなわけでないのは、最初からわかっていた。

 私との関係が本当に牧村さんに対する当てつけだったとしても、もとはといえば彼について失礼な発言したこちらが悪い。だから翔さんを責める権利なんて私にはないし、そうするつもりもない。

 本心でそう弁えているのに、どうしようもなく胸をしめつけられる。
 梓の話になんとか相槌を打ちながら、心の中は言いようのない心細さに襲われていた。

 沈んだ気持ちを引きずりながら帰宅して、自身と彼のスケジュール表を見比べる。
 不規則な勤務形態のため、相変わらずすれ違いばかりだ。とくに今月は彼が国際線を担当しているのもあり、休日もほとんど噛み合っていない。打ち明ける時間がなかったと言われたら、そうなのかもしれない。

 翔さんと、ちゃんと話がしたい。もし彼が本当に想う相手がいるのなら、この関係を続けるわけにはいかない。たとえどんなに苦しくても、身を引くべきだ。

 結婚なんて今は必要ないと、ずっと思っていた。不規則な生活がネックになって、誰かと付き合うのは難しかった。そこに少しも不満はなかったはずなのに、とため息をこぼす。

 たった二カ月弱の時間を一緒に過ごしただけで、すっかり翔さんに想いを寄せてしまったなんて簡単すぎるでしょと自分をなじる。

 異性との駆け引きに慣れていそうな翔さんとは違って、きっと私は免疫がなさすぎたのだと誰にともなく言い訳をする。

 想いの伴わない関係にしがみついていたって、虚しくなるだけだ。足掻いたってどうしようもない。
 そう自分に言い聞かせてみたものの、彼から別れを告げられたら私はどうなってしまうのだろうかと怖くなる。

 一方通行な想いだったとしても、仮初だったとしても、彼に甘やかされる日々は私にとってあまりにも心地よすぎた。
< 70 / 110 >

この作品をシェア

pagetop