俺様パイロットは容赦なく愛を囁き偽り妻のすべてを奪う
 翌日は、ほかの同年代の同僚らからも翔さんと牧村さんの噂を耳にするようになった。容姿の良さや優秀さで、なにかと注目を集めがちな翔さんと牧村さんのこと。興味を持つ人も多く、話の広まり方も速いように思う。

 職務に当たっている間は、プライベートのもやもやしたものは意識の外へ追いやることができる。これはもう慣れだ。そのあたりの切り替えができなければ、管制官の仕事はやっていられない。

 けれど仕事を終えた途端に、彼との関係ばかり考えてしまう。
 パウダールームで簡単にメイクを直した後、スマホを手に取り翔さんにメッセージを送ろうかと悩む。画面に彼の連絡先を表示させて、そっと息を吐き出した。

 なにをどう聞けばいい?と、鏡に映る自分に問いかける。

 ふたりの関係を尋ねれば、どうしても責める調子になってしまいそうなのが嫌だ。
 翔さんは、牧村さんとやり直すつもりがあるのか。彼の本心を尋ねたいのに、知りたくないとも思ってしまう。

 迷っているうちにほかの人が来てしまい、連絡をするのを断念する。その場をそそくさと後にして、重い足取りで帰途に就いた。

「はあ」

 リビングのソファーに膝を抱えて座り、ため息をこぼす。
 スマホを手にしたものの、相変わらず彼にメッセージを送る決心がつかない。

 この心地よい生活を手放す覚悟をするのに、もう少し時間がほしい。そう思っているのは、私だけなのだろう。
 
 勇気が出ずうじうじしていたところ、着信音が鳴り響いた。
 驚いてビクッと肩が跳ねる。
 バクバクと鼓動が打ちつける胸もとを押さえながら、大きく息を吐き出した。それから、スマホの画面を確認した。

「翔さん……」

 滞在先から、翔さんがメッセージを送ってくることは珍しくない。だからすっかり慣れているはずなのに、今夜ばかりはなにを言われるのかと怖気つきそうになる。
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