さくらびと。美桜 番外編(2)
夕方のナースステーション脇の水道で、裕紀は静かに花瓶を洗っていた。
ガラスに映る自分の顔が少し疲れていることに気づく。
今日は朝から病院の研修があり、その後すぐに美桜の病室へ駆けつけてきたのだ。
「あれ?有澤さん」
柔らかな声が背後からかけられた。
振り返ると50代半ばの女性が立っていた。
病棟看護師長の倉橋だ。
白髪交じりの髪を後ろで一つにまとめ、優しげな眼差しの奥に鋭い観察眼を秘めている。
「お疲れさまです」
裕紀は頭を下げた。
「花瓶洗わせてもらってすみません」
倉橋は手を振りながら近づいてきた。
「構わないですよ。それにしても……」