さくらびと。美桜 番外編(2)
「僕こそ……師長さんをはじめ皆様のおかげで……美桜は安心して治療を受けています」
「とんでもない」倉橋は照れたように笑った。「むしろ逆よ。私たちはあなた達夫婦に救われてるの」
「僕たちに……ですか?」
「ええ」
倉橋は周囲を見回し、声を落とした。
「正直なところ……最期を看取る準備を始める患者さんに対して、職員の中にも色々思うことがあるわ。
でも美桜さんのような前向きな姿勢を見ていると……私たちも諦めずに向き合えるの」
裕紀は言葉が出なかった。
病院という厳しい現場で働く人たちの思いを、今まで深く考えたことがなかった。
「特に美桜さんみたいに若い方が……ね」
倉橋の目に僅かな光が宿った。