さくらびと。美桜 番外編(2)

「僕こそ……師長さんをはじめ皆様のおかげで……美桜は安心して治療を受けています」









「とんでもない」倉橋は照れたように笑った。「むしろ逆よ。私たちはあなた達夫婦に救われてるの」






「僕たちに……ですか?」







「ええ」






倉橋は周囲を見回し、声を落とした。







「正直なところ……最期を看取る準備を始める患者さんに対して、職員の中にも色々思うことがあるわ。


でも美桜さんのような前向きな姿勢を見ていると……私たちも諦めずに向き合えるの」







裕紀は言葉が出なかった。






病院という厳しい現場で働く人たちの思いを、今まで深く考えたことがなかった。






「特に美桜さんみたいに若い方が……ね」








倉橋の目に僅かな光が宿った。








< 61 / 97 >

この作品をシェア

pagetop