クズ男の本気愛
急に冷たい声でそう言い放ったので、中津川さんたちの顔が固まる。そこでようやく、霧島くんの後ろに立つ私の存在に気が付いたらしい。みんな一斉に青ざめる。
「あ……高城さん……」
霧島くんはつかつかと私の隣まで歩いてきて、再度彼女たちを睨みつけた。
「人の厚意をなんだと思ってるんだ。先輩は心配してあれだけ親身になってくれてたのに、よくそんなこと言えたな。性格悪すぎて吐き気がする」
「ち、違うんです霧島さん……!」
「なんで俺に弁解しようとしてるんだよ。するなら先輩にだろ。ふざけんな」
それだけ言った霧島くんは、私の背中を押すようにしてその場から立ち去った。私は後ろを振り向いて中津川さんを見ると、顔面蒼白で呆然としていた。これを機に霧島くんと距離を縮めるつもりだったのが、こんなことになってしまうとは思ってもみなかったのだろう。
しばらく廊下を進むと、違う自動販売機が目に入った。霧島くんはまるで何事もなかったかのようにその前に進み、ラインナップを見る。
「どれにしようかなあ」
「……霧島くん。あの、いいのかな。中津川さん……」
「いいんですよ。俺が許せなかったんです。先輩は気にしないでください」
「でも、これから職場でぎくしゃくしたりしない?」
「したとしても何も困らないですもん。俺、先輩が侮辱されたままの方が嫌だ。それを黙って見過ごすのも嫌だ。他の人間なんか知らない」
霧島くんのまっすぐな言葉は、私の傷ついた心の穴を埋めてくれるようだった。自分のしたことが恥ずかしいと思っていたけれど、彼がこんな風に言ってくれたおかげで間違えてなかったんだ、と思える。なんだが、ぐっと泣きそうになってしまう。
「……ありがとう」
私がお礼を言うと、彼は白い歯を出して笑った。そして人懐っこく言うのだ。
「俺、紅茶にします。ミルクティー!」
「わかった、奢る」
「じゃあ俺は先輩に奢りますね。何にします?」
「え、それじゃあ意味ないじゃん!」
「なくないですよ。先輩に奢ってもらったんだと思うと、美味しく感じるじゃないですか」
言い返そうとしたけれど、確かに霧島くんに貰ったんだと思えば、なんだかおいしく感じる気がした。私は笑って、彼の言葉に甘える。
「じゃあ、私はレモンティー」
「よし。仕事頑張りますか」
私たちはそれぞれ、ドリンクを買い合った。
ある居酒屋に、男女が二人向かい合って座っていた。男の方はしこたま飲んでいるようで、赤い顔をしてビールを煽っている。正面の女性は長い黒髪をした美女で、ハイボールの水滴を指でなぞっていた。
「えーじゃあ、彼女怒っちゃったの?」
男はぶすっと怒りながら言う。
「めっちゃ切れてた。そんなに怒るところ?」
「彼女、心せまーい。私なら、彼氏の友人関係に口を挟まないよ。信じてるもん、彼氏のこと」
「だよなあー。薫はそう言うと思ってたよ」
薫はニコッと笑って頬杖をつきながら、見上げるようにして大輔に言う。
「合わなかったんだよ。大輔はもっと、心が広くて包容力のある女がいいんじゃない? 別れて正解」
「別れてないけど」
大輔がそう言ったので、薫がぴたりと止まった。
「え? でも終わりにしようって言って、合い鍵返したんでしょ?」
「あいつが切れてるから、とりあえず頭を冷やした方がいいなと思ってそうしただけ。俺は同意してねーし、別れてない」
「…………そう。なんで別れないの? 窮屈でしょ」
薫は顔を引きつらせてそう言った。大輔はビールのお替りを店員に注文した後、質問に答える。
「でも、結婚するならああいうタイプがいいと思ってんだよ。家事も出来るししっかりしてるし。ノリはあんまりよくないと思うけど、まあ俺がふらふらしててもちゃんと止めてくれるところはいいよなって」
「そんなに結婚したいの? 結婚なんて、長く時間を過ごすんだから、絶対ノリと気が合う方がいいでしょ?」
「そりゃそうだけどーまあすぐに別れるのは勿体ないと思って。あいつが落ち着いたらもうちょっと話してみるよ」
大輔ははあと大きなため息をついて、枝豆を頬張った。そんな姿を見ながら、薫はテーブルの下で拳を握りしめる。爪が食い込んで、手のひらが痛んだ。
表面は必死に微笑みを維持していたが、いら立ちが隠しきれていなかった。
「あ……高城さん……」
霧島くんはつかつかと私の隣まで歩いてきて、再度彼女たちを睨みつけた。
「人の厚意をなんだと思ってるんだ。先輩は心配してあれだけ親身になってくれてたのに、よくそんなこと言えたな。性格悪すぎて吐き気がする」
「ち、違うんです霧島さん……!」
「なんで俺に弁解しようとしてるんだよ。するなら先輩にだろ。ふざけんな」
それだけ言った霧島くんは、私の背中を押すようにしてその場から立ち去った。私は後ろを振り向いて中津川さんを見ると、顔面蒼白で呆然としていた。これを機に霧島くんと距離を縮めるつもりだったのが、こんなことになってしまうとは思ってもみなかったのだろう。
しばらく廊下を進むと、違う自動販売機が目に入った。霧島くんはまるで何事もなかったかのようにその前に進み、ラインナップを見る。
「どれにしようかなあ」
「……霧島くん。あの、いいのかな。中津川さん……」
「いいんですよ。俺が許せなかったんです。先輩は気にしないでください」
「でも、これから職場でぎくしゃくしたりしない?」
「したとしても何も困らないですもん。俺、先輩が侮辱されたままの方が嫌だ。それを黙って見過ごすのも嫌だ。他の人間なんか知らない」
霧島くんのまっすぐな言葉は、私の傷ついた心の穴を埋めてくれるようだった。自分のしたことが恥ずかしいと思っていたけれど、彼がこんな風に言ってくれたおかげで間違えてなかったんだ、と思える。なんだが、ぐっと泣きそうになってしまう。
「……ありがとう」
私がお礼を言うと、彼は白い歯を出して笑った。そして人懐っこく言うのだ。
「俺、紅茶にします。ミルクティー!」
「わかった、奢る」
「じゃあ俺は先輩に奢りますね。何にします?」
「え、それじゃあ意味ないじゃん!」
「なくないですよ。先輩に奢ってもらったんだと思うと、美味しく感じるじゃないですか」
言い返そうとしたけれど、確かに霧島くんに貰ったんだと思えば、なんだかおいしく感じる気がした。私は笑って、彼の言葉に甘える。
「じゃあ、私はレモンティー」
「よし。仕事頑張りますか」
私たちはそれぞれ、ドリンクを買い合った。
ある居酒屋に、男女が二人向かい合って座っていた。男の方はしこたま飲んでいるようで、赤い顔をしてビールを煽っている。正面の女性は長い黒髪をした美女で、ハイボールの水滴を指でなぞっていた。
「えーじゃあ、彼女怒っちゃったの?」
男はぶすっと怒りながら言う。
「めっちゃ切れてた。そんなに怒るところ?」
「彼女、心せまーい。私なら、彼氏の友人関係に口を挟まないよ。信じてるもん、彼氏のこと」
「だよなあー。薫はそう言うと思ってたよ」
薫はニコッと笑って頬杖をつきながら、見上げるようにして大輔に言う。
「合わなかったんだよ。大輔はもっと、心が広くて包容力のある女がいいんじゃない? 別れて正解」
「別れてないけど」
大輔がそう言ったので、薫がぴたりと止まった。
「え? でも終わりにしようって言って、合い鍵返したんでしょ?」
「あいつが切れてるから、とりあえず頭を冷やした方がいいなと思ってそうしただけ。俺は同意してねーし、別れてない」
「…………そう。なんで別れないの? 窮屈でしょ」
薫は顔を引きつらせてそう言った。大輔はビールのお替りを店員に注文した後、質問に答える。
「でも、結婚するならああいうタイプがいいと思ってんだよ。家事も出来るししっかりしてるし。ノリはあんまりよくないと思うけど、まあ俺がふらふらしててもちゃんと止めてくれるところはいいよなって」
「そんなに結婚したいの? 結婚なんて、長く時間を過ごすんだから、絶対ノリと気が合う方がいいでしょ?」
「そりゃそうだけどーまあすぐに別れるのは勿体ないと思って。あいつが落ち着いたらもうちょっと話してみるよ」
大輔ははあと大きなため息をついて、枝豆を頬張った。そんな姿を見ながら、薫はテーブルの下で拳を握りしめる。爪が食い込んで、手のひらが痛んだ。
表面は必死に微笑みを維持していたが、いら立ちが隠しきれていなかった。