クズ男の本気愛

好きなのかも


 
「そんなことがあったの? うっわ、最低じゃん中津川さん」

 会社近くにあるカフェは、料理が出てくるのも早く、値段も安い。その割に味もいいいので、私たちはよく利用していた。今日はAランチのロコモコ丼を食べている。敦美は向かいで、Bランチの唐揚げを頬張っている。職業上、毎回敦美とランチを取るのは不可能なのだが、時々時間が合うとこうして一緒に食事を取っている。

 私は昨晩と今朝の話を敦美に話していた。敦美ははじめこそわくわく顔で聞いていたが、最後はドン引きの顔で唐揚げを食べる手すら止まってしまっていた。

「どおりで、今日中津川さんやけに静かだなって思ってた。霧島くんがねーやるなあ。惚れるわ、私は観賞用って決めてるからいいけど、普通ならこれは惚れちゃうよね」

「敦美彼氏いるもんね」

「推しは人生を豊かにしてくれるからね。霧島くんは推し。それにしても、霧島くんってほんと璃子のこと大好きだよねえ。入社した時から知ってたけどさ。まあ元々人懐っこい子だけど、璃子には尻尾ブンブンでついていってる感じがする」

「付き合いが長いからね。あとたぶん、私は霧島くんをちやほやしないから逆に面白いんだと思う」

「確かに璃子、他の女子に比べたら塩対応だよねー! 特別扱いされないのが嬉しいのかな。んで……璃子はどうなのよ」

 にやりと笑って敦美が尋ねてくるので、呆れる。

「どうって、どうもないよ。前も言ったけど、お互い恋愛対象外でしょ」

「えーもし霧島くんに言い寄られたらどうするの?」

「天地がひっくり返ってもない」

「私は結構あると思ってるよ。そして、お似合いだとも思ってる」

 急に敦美は真面目なトーンで言ったので、戸惑いながらご飯を頬張る。

「いや、ありえないと思うけど、万が一そうなったとしてもやっぱりないよ。ああいう人気者と付き合うのは疲れた。真面目で物静かな人と付き合いたいの……!」

「あー大輔のことがあるからね……そういえばあいつ、同期とかに言いふらして回ってるみたいだけど大丈夫?」

「まあ、付き合ってたことはみんな知ってたからね。別れたってことは報告しないとと思ってるのかな」

 私はもう大輔の名前を聞いても、特に何も思わなかった。別れた時は辛かったし泣いたけれど、完全に吹っ切れている。

 恐らく、彼に対する不満が少しずつ溜まっていたんだろう。好きだったから誤魔化してきたけれど、爆発してしまった今、別れたことにスッキリしているのかもしれない。

「まあ、大輔に璃子はもったいないよ。もっといい男を見つけて幸せになって、見せつけてやれ!」

「あはは、それが理想だね。いい人いないかなあー」

 そう笑いながらご飯を食べていると、テーブルの上に置いておいたスマホが光る。覗き込んでみると、霧島くんからだった。

「あ、霧島くん」

「え!? なになにこのタイミングでメッセージですかあ!? デートのお誘いとかじゃないの?」

「そんなわけないでしょ。何か用事が……」

 そう言いながらラインを開いてみると、彼からこんな文章が来ていた。

『昨日はいろいろ大変でしたし、息抜きにご飯でも行きませんか? 俺、近くに行ってみたい店があるんです! 先輩ピザ好きでしたよね?』

 お誘いだった。

 私が画面を見ながら頬を掻いている様子に、敦美は何かを感じ取ったようににやにやする。

「あらー? やっぱりー?」

「多分、私が今日中津川さんにいろいろ言われたから、励まそうとしてるんだね。気を遣わなくていいよって言っておく」

「ちょっとまてーーーい!」

 敦美は突然私の手からスマホを取り上げ、ギラギラした目でこちらを見てきたので、その気迫に少し引いてしまった。

「な、なに?」

「励ましてくれるならそれでいいじゃん、甘えておきな! なんっであんなイケメンと食事に行けるのに断るかなあ!」

「だって後輩に気を遣わせるの申し訳ないし、霧島くんを狙う女子に見られたら怖いじゃん」

「霧島くんなら守ってくれるから大丈夫だって! やーん、ピザ好きってなんで知ってるのよもう、出来る子だなあ!」

「ちょっと、勝手に読まないでくれる……」

「いいよ、っと」

「勝手に返事しないでくれる!!?」

 慌てて取り返すも、もう送ってしまった後だった。しかも、霧島くんも画面を見ていたようで即既読に。これでは、もう断りづらい。

 私は敦美を睨んだ。

「もう! 何するの!」

「いいじゃん、仲良くしてる後輩が、先輩を励まそうって思ってくれてるんだよ? それを断るなんて、後輩として勇気出したのに落ち込んじゃうよ。どうすんの?」

「……それもそうか」

 彼なりに頑張ってくれてるのに、それを断るのも確かによくない気がする。こういうときはありがとう、と素直に受け取るのも、先輩として必要なのか。

 私は小さく頷いた。

「確かにそれもそうだね。そもそも、私と一緒にいても勘違いされないか。先輩と仕事の話でもしてるのかなーって思うぐらいだよね。釣り合ってないし、心配しすぎか」

「そんな……まあいいや。うん。とりあえず行っておいで」

 敦美がそう言ったので、私は頷いた。スマホを覗き込むと、霧島くんが喜びのスタンプを送ってきてくれたところだった。可愛い犬が笑っているイラストで、なんだか霧島くんに似ていると思って、少し笑った。

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