クズ男の本気愛
仕事を終え、帰り支度を始める。今日は比較的、仕事が早く片付いたのでよかった。立ち上がってカバンを手にしたところで、タイミングよく霧島くんから声が掛かった。
「せーんぱい。終わりました?」
「あ、うん終わったよ。行こうか」
「行きましょ行きましょ! 俺、めっちゃお腹すきましたー」
お腹をさすりながらそう言った彼に笑った時、その後ろから困ったようにこちらを見てくる中津川さんの顔が見えた。恐らく、霧島くんと仲直りをしたいのだと思う。今日一日落ち込んでいるようだったし、だいぶダメージを食らっている。
うーん、職場がギスギスするのはよくないし、私が一番年上なのだから、ここはちょっと動くか。三人でピザに行こうと誘ってみよう。
中津川さんの発言に何も思わないわけではないし、もちろん悲しいのだけれど、彼らの先輩としてもめ事をそのままにしておくのはよくない気がする。私は意を決して声を掛けようとした。
「あの、なか……」
「はい、先輩行きますよー。こっちこっち」
言いかけたところで、強引に霧島くんが私の手を引き始めた。急なことなので転んでしまいそうになりながら、何とか彼についていく。
「あの、霧島くん。よかったら三人で……」
「俺が誘ったのは誰でしたっけ? あーお腹すいたー」
中津川さんを誘おうとしたのがお見通しだったようだ。彼は私に何かを言う暇を与えず、ずんずん歩いて廊下に出てしまう。最後にちらりと中津川さんを見たけれど、じっとこちらを恨めしそうに見ていた。
霧島くんに手を引かれたままエレベーター前までたどり着き、ようやく離してもらったかと思うと、彼は不満げに口を尖らせた。
「なんで誰かを誘おうとしたんですか? 俺、先輩と二人で行くつもりだったんですけど」
「だって、反省してるみたいだったし、仲直りした方がいいと思って」
「別に仕事に支障は出てないから大丈夫。無視してるわけじゃないし。先輩はいろいろ気を遣いすぎですよ」
呆れたように言って、やってきたエレベーターに乗り込む。仕方なく私も続き、二人きりになった。
一階を目指して下降していく中、私は話題を変える。
「誘ってくれてありがとう。励まそうとしてくれてるんだよね。朝、あんなことがあったから」
「え? ああまあ……そりゃそういう意味もありますけど、俺が先輩と食べたかっただけです。二人でゆっくりしたかったんです」
「なんで? 何か話したいことでもあるの?」
首を傾げて尋ねるも、向こうも同じように首を傾げた。
「……なんでだろう? なんとなくそう思っただけです。別に相談したいことがあるわけでもないし」
「なにそれ」
「なんでしょうね。そう思ったんだからいいじゃないですか。思えば、付き合い長いのに二人でご飯とか行ったことないし」
「そりゃ、霧島くんはいつでも彼女がいるから、女性と二人きりで食事なんて出来なかったでしょ」
「それもそうか!! あー確かにそうだよなあ。今彼女がいなくてよかった」
あっけらかんとそんなことを言う彼は、一体何を考えているのか? だが、本人もわかっていなそうなのでそれ以上追及しなかった。
一階につき、エレベーターをおりて玄関を出る。外は空が赤く染まり、半分は夜色に染まり出していた。吐いた息が白くなり、空へ上っていく。
「こっちにあるお店なんです! 行きましょう」
やけに嬉しそうにそう言った。私は頷き、霧島くんの後を追う。
「高城ー!」
名前を呼ばれて振り向くと、他部署の同期が二人、こちらに向かって手を振っていた。大輔とよく遊んだりしている男たちで、私たちが付き合っていることももちろん知っていた。
私が足を止めていると、二人が駆け寄ってくる。
「なに、どうしたの?」
「俺たち聞いたよ。お前たちのこと」
「ああ……」
別れたことを大輔から聞いたのだろう。私は苦笑いしながら、なるべく明るく言うように心がけた。
「そうなんだよね。まあ、でもこれからは普通に同期として……」
「聞いたけどさー意外だったわ、高城って男を縛る系だったんだ?」
にやにやしてそう言ってきたので、ぽかんとする。二人は面白そうに続ける。
「嫉妬深い感じとは思わなかったわー高城はどんと構えてるタイプかと思ってた」
「あれはさあ、大輔も可哀そうだって。あいつが友達多いの分かってるじゃん」
「そーそー。謝った方がいいんじゃね?」
次から次にそんなことを言うので、呆気にとられながらなんとか尋ねる。
「え、えっと、大輔から何を聞いたの?」
「え? あいつに女友達と縁を切れってブチ切れたんでしょ? 大輔の友達っていうから俺らも会ったことあるけど、薫は美人だよなあ。嫉妬したんでしょ?」
「美人がそばにいると不安になっちゃう気持ちはわからんでもないけど、あの子明るくてサバサバしてて、人の男取るようなタイプじゃないじゃん? そこ、分かってやらないとー」
「意地張ってないで、大輔と話したら?」
二人の発言が信じられなくて、ただ立ち尽くしてしまった。頭がぐるぐると混乱してくる。