クズ男の本気愛

 

 たっぷりのチーズが乗ったピザは、手に取るととろりと垂れそうになったので慌てて口に運ぶ。バジルの香りがふわりと鼻を抜け、うっとりとしそうなほど美味しい。

「これ、凄く美味しいね。初めて来たけど、近くにこんなお店があったなんて知らなかった」

「……あの」

「ほら、食べなよ」

「あの?」

「え? なに?」

「俺、さっき告白したんですけど」

 不満げにこちらを見てくる霧島くんがそんなことを言ったので、むせそうになり慌てて水を飲んだ。しっかり呼吸を落ち着けてから答える。

「まあそんな感じだったけど、気の迷いであることは間違いないと思う」

「え? 何でですか!」

 道端で急に『好きなのかも』なんてぶっこんできた彼にしばらく思考が停止した私だが、すぐに冷静になった。今までの話を聞くに、初恋もまだらしい彼が、私を好きなんてありえないと思った。

 今日は私が惨めなところばかり見せてしまったので、『なんとかしてあげたい』と彼なりに思ってくれたんだろう。元々、根は真面目な子なのでそう思うのは簡単に想像がつく。

 それを好きだと勘違いしているだけだ。

 私はもう一口ピザを頬張り、続ける。

「恋と勘違いしてるんだよ。私は今日、周りからいろいろ言われてて、同情したんでしょう。正義感が強いから守ってあげなくちゃ、とでも思ってくれて、それを好きだと思ったんだよ。つい昨日、人を好きになるとかよくわからないって話をしたばかりでしょう」

「違いますよ。別に先輩に同情なんてしてない。だって、先輩に可哀想なところないですからね。ただ周りが性格も頭も悪かっただけって思ってますから」

「きっぱり言うね……」

「昨日確かにそんな話しましたけど、ただ気づいてなかっただけだと思うんです」

 彼はずいっと前のめりになる。

「ね、璃子先輩。いっそ俺と付き合ってみませんか?」

 ドストレートに言われたので、さすがに面食らった。

「いや、無理だから」

「なんで?」

「今までの自分の恋愛歴忘れたの? 最長二か月でフラれるなんてごめんだよ! 職場内じゃやりにくい!」

 私は悲痛な声を上げる。後輩が、しかもこんなモテる子が元カレになるなんて、絶対に嫌だ。大輔以上に気まずくなるだろう。

 だが霧島くんは引かない。

「二か月は、向こうから告白してきたのを付き合った結果であって、俺から告白したのは初めてなんだからそうならないかもしれませんよ」

「ないない。よーく考えて。年も上だし平凡な私、絶対すぐに目が覚めるから」

「先輩は平凡じゃないですよ。今までも、俺は人間として先輩が好きなのはわかってました。情に厚いししっかり者で、絶対俺をちやほやせずいつも平等だったでしょ。自覚するのが遅かったけど、多分ずっと好きだったんです」

「ちょ、ちょっとストップストップ!」

 声が大きくなってきたのを慌てて止める。随分熱くなってしまっているが、一旦冷静になった方がいい。いくら一時の迷いだと分かり切っていても、これだけまっすぐ目を見て好きだと連呼されれば、こちらもドキドキしてしまう。

「まずはピザ! 冷めないうちに食べて!」

 私が指さすと、彼は仕方なくそれを食べた。私は手をおしぼりで拭きながら一旦深呼吸をする。

「わかった、霧島くんは本気でそう言ってくれてるとしよう。でも悪いけど、私は霧島くんとは付き合わない」

「え、なんで?」

「次に付き合う人は真面目で静かな人って決めてるの」

 大輔と色々あったからこそ、次は友達が多いとか、人気者とか、そういう人は避けたい。とにかく二人で静かに生活していける人がいい。

 霧島くんと付き合ったら絶対そうはならない。まず周りの女性からの嫉妬も怖いし、嫌がらせも怖いし、絶対美人の女性から誘惑されるのを目撃するだろうし、心労が凄そうだ。

 結婚も考えたいのに年下だし……。

 霧島くんは少し目を伏せた。

「真面目……静か……」

 自分でも、私の理想とかけ離れている自覚があったのだろう。彼は黙り込んでしまう。私は微笑み、霧島くんにお礼を言う。

「でも嬉しかったよ。いろいろ庇ってもらったし……本当にありがとう」

「俺、諦めるなんて言ってないですよ」

 彼は私をじっと見て、そう言った。

「……え、でも」

「せっかくこれが好きってことなのかなってわかったのに、こんなにあっさりフラれたんじゃ情けないです。先輩が折れるまで押す」

「押す……!?」

「先輩が他の男と付き合うとか、むかむかするんです。悪口言われてるのも耐えられない。同情とかじゃないです、好きな人だから耐えられないんです」

「あ、あのね霧島くん……」

「俺は先輩の理想とは程遠いかもしれないけど、頑張ります。いいところいっぱい見せます。見ててくださいね」

 言い切った彼は満足したのか、ようやくパクパクとピザを美味しそうに頬張り始めた。言いたいことを言ってすっきりしたかもしれないが、こちらは戸惑うしかない。

 そんなこと言われても、困るよ……今までこんなにぐいぐい来られたこともないし、年下から告白されたこともない。しかも、こんなタイプ。

 私は何だかお腹がいっぱいになってしまって、ピザが進まなくなってしまった。何とか無理に頬張るも、味がよくわからないことになってしまい、もったいないなと思ってしまった。



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