クズ男の本気愛

 霧島くんと食事を終わったあとは特に何もなく解散になった。霧島くんはやけに嬉しそうに話していて、私はたじたじ。完全に立場がおかしなことになってしまった。

 家に帰ると、彼から『またご飯に行きましょうね!』というメッセージが来ていて、返信に困る。向こうの好意を知っていながら行くのもどうかと思うし、職場の後輩なのに頑なに断るのもどうかと思った。

 結局、なんて返事をしようか迷っている間に、次の日を迎えてしまった。
 
 

 あまり眠れず朝を迎え、とりあえず会社に向かう。眠い目をこすりながら、しゃきっとするためにコーヒーでも買いに行こう、と席を立った。ちらりと霧島くんの方を見るも、彼はまだ来ていないようだったのでほっとする。

 スマホを持って自動販売機に向かい、ブラックにしようかミルクを入れようか一人で悩む。その時、隣にあったミルクティーが目に入って、霧島くんのことを思い出してしまった。

「はあ。切り替えないとね。仕事仕事」

 無理やり彼を脳から取り払い、コーヒーを買おうとスマホを操作したところ、突然すぐ背後から声がした。

「せんぱーい、なんでライン返してくれなかったんですか」

「ぎゃっ!」

 恨みがましそうな霧島くんの声に飛び上がってしまう。振り返ると、彼はお腹を抱えてげらげら笑っていた。

「す、すごい声だった! お、おもしろ」

「きゅ、急に背後に立たないでよ!」

「驚かせました? すみません。会社にきたら先輩の姿が見えて、嬉しくて来ちゃった」

 肩をすくめながらさらりとそんなことを言ったので、私はバクバクしていた心臓を抑えながら彼を軽く睨んだ。調子のいいことを言って。

「もう。そういうこと言わないで」

 再び自販機の方を向いてコーヒーを購入する。

「えーだって本心だし……んで先輩、なんでライン無視したんですか? 俺ずっと返事待ってたんですよ」

「そ、それはごめん。寝ちゃってて」

 嘘だ。むしろあまり寝れていない。

「えー!? 余裕ですね。俺はわくわくして寝れなかったっていうのに? 悔しい」

 彼は本当に悔しそうな顔をしながらそう言ったので、噓をついてしまった自分の心が痛んだ。私の方が絶対、寝てないのに。

 そんなこちらの気持ちには気付かず、霧島くんはすぐに笑顔になった。

「先輩。次は和食行きません? 飲みましょうよ」

「……いやまあ、今度ね」

「この店知ってます? お酒の種類も多くて料理も美味しいんですって! ほら」

 スマホを操作して私に店を見せてくる。確かにいい感じの店……ってそうじゃない。対応をどうすればいいのだ。

 困っておろおろしているところへ、明るい声が響き渡った。

「あー霧島くんだー!」

「ほんとだ。おはよー!」

 私には到底出せない高いトーンのキラキラ声。その声に合う綺麗な女性たちが三人、こちらに手を振って寄ってきた。おお、なんかやたら美人が揃っているぞ。

 彼女たちは霧島くんの前に集まり、私は自然と追いやられてしまう。みんな目を輝かせて霧島くんを眺めていた。

「朝から会えるなんてラッキー」

「ねえねえ、今日の帰りって空いてる? 私たちと飲まない?」

「近くにいいお店あるんだー」

 なんとまあ、まさにきゃぴきゃぴという効果音が相応しい人たちだ。アラサーの私にはすでについていけないテンション。いや、私が二十歳だとしてもこの人たちとは違う世界の人間なので、多分ついていけていない。

 モテるなあ、霧島くん。相変わらず凄い。

 しかし、いろんな子をとっかえひっかえしてるなんてみんな知ってるだろうに、よく集まるな。それとも、お互い軽い気持ちで付き合いましょう、ぐらいなのだろうか? いや、私なら本気にさせられる! とか。うん、それってありそう。みんな自分に自信を持っていそうなタイプだ。その自信凄いなあ。

 そんなことを考えながら買ったコーヒーを手に持ち、そそくさと去ろうとする。

「あー俺、飲みとかいいや。好きな人出来たし」

 彼が爆弾発言を落とし、驚いて振り返ってしまった。女性たちも目を点にしている。

「落ち着くことにしたから! これからはちゃんとしようと思って」

 にっこり断る霧島くん。ハッとした一人が、不思議そうに尋ねる。

「えー好きな人とか、びっくり。本気ー? 霧島くんは誰の物にもならないって思ってたー」

「そーそー。だって誰と付き合ってもハマらないタイプじゃん?」

 どこか焦ったようにみんなが言うが、彼は飄々と答える。

「うん、本気。ハマってる」

 全員がぽかんと口を開けたところで、霧島くんが彼女たちの間を割って私のもとへ駆け寄ってくる。
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