クズ男の本気愛
「いえ、全然」
気がつけば、口からそんな言葉が出ていた。薫さんが少し目を見開いている。
「いや、そりゃ別れは悲しくもありましたけど……落ち込んでてもしょうがないというか。大輔とは根本的に合わなかったって思うので、別れも仕方なかったかなって思えるんです。それに忙しくて、あんまり思い出せなかったし……」
「……強がってるとかっこ悪いですよ? 女は素直にならないと」
頬をやや引きつらせて薫さんが言ったが、私は首を傾げた。
「強がってるんですかね? まあ普通そう見えますよね。でも本当にそれどころじゃないので、薫さんが気にすることはないんです! 普通に充実してますし、他に……」
私が言いかけているところに、明るい声が響いた。
「先輩!」
声の方を見てみると、ひょこっと廊下に顔を出す霧島くんがいた。嬉しそうにこちらに手を振っているので、私も苦笑いして振り返した。
「お帰りなさい! 今終わりですか?」
「ちょっとバタバタしてて……」
「帰れそうです?」
「ううん、まだまだ」
私は自然と薫さんから離れ、霧島くんに歩み寄っていた。彼は私が朝言ったことを学んだのか、小さな声で尋ねてくる。
「和食行きません?」
「……いや、考え中って……」
「俺手伝いますから。行きたい。お願い」
やけに真剣な前で私に言ってくるので、ぐっと言葉に詰まってしまった。そんな子犬みたいな顔で言われると、断りにくいではないか。
「じゃ、じゃあ……」
「やった! さ、早く終わらせましょ!」
霧島くんは鼻歌でも歌いだしそうになりながら、さっさと中へ入っていく。なんだか、彼のペースに結局振り回されている気がして項垂れた。私、先輩なのにな。
だがぐっと顔を持ち上げる。この際、もう一度きちんと話しておくべきなんじゃないか。元々それなりに仲がいい同僚だったのだし、適当にあしらっているばかりはよくない。食事をしながらきちんと向き合うのだ。
私はそう決意して、霧島くんの後を追う。
そんな私たちを、じっと後ろから薫さんが睨みつけていた。
「他にもっといい男がそばにいたから、そっちで忙しいです、ってこと?」
そう言って、片方の口角を上げていやらしく笑う。
「あんなレベル高い男に相手にされるわけないのに……付きまとっててバカみたい」
霧島くんが連れてきてくれたお店は、雰囲気もいい半個室の和食屋さんだった。あまり騒がしくなく、どちらかと言えばしっとりとしたお店だ。少し暗めの照明で、間接照明がいい仕事をしている。
料理も美味しそうで、お酒の種類も豊富。来ることにあれだけ悩んでいた私だけれど、メニューを見ると目を輝かせてしまった。ピザだって美味しかったけれど、和食はまた違う魅力がある。何より、お酒が私を呼んでいる。
「先輩ってお酒強いですよね」
「弱くはないかな」
「明日は休みですし、好きなだけ飲んでもいいですね!」
「そ、そんなには飲むつもりないけど、でもちょっと飲もうかな」
自然と顔が緩んでしまう。結局、私たちはまずビールを注文した。すぐに店員が運んで来てくれ、それぞれビールを手にした。
「じゃ、霧島くん。一週間お疲れ! 乾杯」
「乾杯!」
グラスをぶつけたあと、私はすぐに喉にビールを流し込み、その苦みと刺激にうっとりと酔いしれた。つい、ごくごくとどんどん飲んでしまう。
「で、先輩は俺がどんなふうになったら付き合ってくれます?」
「ぶほっ」
突然、とんでもない話題をぶっこんできた霧島くんに驚き、ビールが変なところに入ってしまった。私はむせながら必死に息を整える。
「先輩、大丈夫ですか?」
「あ、あのさあ……」
「昨日も話しましたけど、具体的にもっと聞きたいなーって思って。今日も仕事しながら、それずっと考えてたんですよ。あ、もちろん手を抜いてはないですよ? いい所見せるって決めたんだから、そこはしっかりしてます。でも時間が空くと考えてて」
彼のこの発言、凄まじい。普通の女ならときめくのかもしれないが、私はただただ感心してしまった。ここ数日、霧島くんと一緒にいることが多いけれど、時間を共有すればするほど彼がモテる理由がわかる。
私がじっと見つめていると、彼がきょとんとする。
「何ですか?」
「そういう発言をするのが凄いなって思ってたところ。普通の女の子ならイチコロだよね。そりゃ女が途切れないわ……」
「いくつか言わせててください。先輩がイチコロになってくれないと意味ないですし、俺は先輩以外にこんなこと言ったことないですよ。だって何も言わなくても女の子は来ますもん」
「出た」
「今のだって別に狙ったわけでもなく、正直に言っただけなんですけど……。だって今まで仕事中に誰かのことを思い出すなんてしたことなかったし。俺にとっては新鮮で、自分でもびっくりしてたんですよ」
ぐっと言葉に詰まり、それを誤魔化すためにビールを煽った。
自慢じゃないが、私はこれほど男性に強く誘われたことはない。
大輔だって、なんだかノリで『付き合う?』みたいに言われて始まった。思い返してみれば、これまでもそういう流ればかりで、好きだとかも言われたことがないように思う。面と向かってこれほど真っすぐ言葉を貰うのは、初めての経験だ。
とはいえ、落ちない。落ちないぞ。こんなのに落ちたら大変だ。
気がつけば、口からそんな言葉が出ていた。薫さんが少し目を見開いている。
「いや、そりゃ別れは悲しくもありましたけど……落ち込んでてもしょうがないというか。大輔とは根本的に合わなかったって思うので、別れも仕方なかったかなって思えるんです。それに忙しくて、あんまり思い出せなかったし……」
「……強がってるとかっこ悪いですよ? 女は素直にならないと」
頬をやや引きつらせて薫さんが言ったが、私は首を傾げた。
「強がってるんですかね? まあ普通そう見えますよね。でも本当にそれどころじゃないので、薫さんが気にすることはないんです! 普通に充実してますし、他に……」
私が言いかけているところに、明るい声が響いた。
「先輩!」
声の方を見てみると、ひょこっと廊下に顔を出す霧島くんがいた。嬉しそうにこちらに手を振っているので、私も苦笑いして振り返した。
「お帰りなさい! 今終わりですか?」
「ちょっとバタバタしてて……」
「帰れそうです?」
「ううん、まだまだ」
私は自然と薫さんから離れ、霧島くんに歩み寄っていた。彼は私が朝言ったことを学んだのか、小さな声で尋ねてくる。
「和食行きません?」
「……いや、考え中って……」
「俺手伝いますから。行きたい。お願い」
やけに真剣な前で私に言ってくるので、ぐっと言葉に詰まってしまった。そんな子犬みたいな顔で言われると、断りにくいではないか。
「じゃ、じゃあ……」
「やった! さ、早く終わらせましょ!」
霧島くんは鼻歌でも歌いだしそうになりながら、さっさと中へ入っていく。なんだか、彼のペースに結局振り回されている気がして項垂れた。私、先輩なのにな。
だがぐっと顔を持ち上げる。この際、もう一度きちんと話しておくべきなんじゃないか。元々それなりに仲がいい同僚だったのだし、適当にあしらっているばかりはよくない。食事をしながらきちんと向き合うのだ。
私はそう決意して、霧島くんの後を追う。
そんな私たちを、じっと後ろから薫さんが睨みつけていた。
「他にもっといい男がそばにいたから、そっちで忙しいです、ってこと?」
そう言って、片方の口角を上げていやらしく笑う。
「あんなレベル高い男に相手にされるわけないのに……付きまとっててバカみたい」
霧島くんが連れてきてくれたお店は、雰囲気もいい半個室の和食屋さんだった。あまり騒がしくなく、どちらかと言えばしっとりとしたお店だ。少し暗めの照明で、間接照明がいい仕事をしている。
料理も美味しそうで、お酒の種類も豊富。来ることにあれだけ悩んでいた私だけれど、メニューを見ると目を輝かせてしまった。ピザだって美味しかったけれど、和食はまた違う魅力がある。何より、お酒が私を呼んでいる。
「先輩ってお酒強いですよね」
「弱くはないかな」
「明日は休みですし、好きなだけ飲んでもいいですね!」
「そ、そんなには飲むつもりないけど、でもちょっと飲もうかな」
自然と顔が緩んでしまう。結局、私たちはまずビールを注文した。すぐに店員が運んで来てくれ、それぞれビールを手にした。
「じゃ、霧島くん。一週間お疲れ! 乾杯」
「乾杯!」
グラスをぶつけたあと、私はすぐに喉にビールを流し込み、その苦みと刺激にうっとりと酔いしれた。つい、ごくごくとどんどん飲んでしまう。
「で、先輩は俺がどんなふうになったら付き合ってくれます?」
「ぶほっ」
突然、とんでもない話題をぶっこんできた霧島くんに驚き、ビールが変なところに入ってしまった。私はむせながら必死に息を整える。
「先輩、大丈夫ですか?」
「あ、あのさあ……」
「昨日も話しましたけど、具体的にもっと聞きたいなーって思って。今日も仕事しながら、それずっと考えてたんですよ。あ、もちろん手を抜いてはないですよ? いい所見せるって決めたんだから、そこはしっかりしてます。でも時間が空くと考えてて」
彼のこの発言、凄まじい。普通の女ならときめくのかもしれないが、私はただただ感心してしまった。ここ数日、霧島くんと一緒にいることが多いけれど、時間を共有すればするほど彼がモテる理由がわかる。
私がじっと見つめていると、彼がきょとんとする。
「何ですか?」
「そういう発言をするのが凄いなって思ってたところ。普通の女の子ならイチコロだよね。そりゃ女が途切れないわ……」
「いくつか言わせててください。先輩がイチコロになってくれないと意味ないですし、俺は先輩以外にこんなこと言ったことないですよ。だって何も言わなくても女の子は来ますもん」
「出た」
「今のだって別に狙ったわけでもなく、正直に言っただけなんですけど……。だって今まで仕事中に誰かのことを思い出すなんてしたことなかったし。俺にとっては新鮮で、自分でもびっくりしてたんですよ」
ぐっと言葉に詰まり、それを誤魔化すためにビールを煽った。
自慢じゃないが、私はこれほど男性に強く誘われたことはない。
大輔だって、なんだかノリで『付き合う?』みたいに言われて始まった。思い返してみれば、これまでもそういう流ればかりで、好きだとかも言われたことがないように思う。面と向かってこれほど真っすぐ言葉を貰うのは、初めての経験だ。
とはいえ、落ちない。落ちないぞ。こんなのに落ちたら大変だ。