クズ男の本気愛
霧島くんの家
目を開けた時、霧島くんの綺麗な寝顔が見えて、本気で心臓が止まったのかと思った。
部屋は朝日が差し込んで、夜などとうに終わってしまったことを示している。霧島くんは長いまつ毛を伏せて、すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。ちらりと周りを見てみると、それなりにスッキリした寝室で、霧島くんの家なのだろうと予想がつく。
霧島くんの家、だと……?
瞬きもせず全身が固まり、停止していた頭を必死に回転させる。昨日、彼とお酒を飲んでいた。そう、そして……
私はごくりと唾を飲み込み、まずは恐る恐る自分の体を見た。
ちらりと見て、着ていたはずのシャツではなく、キャミソールを認識したところで私の頭は限界を超えた。
「ぎゃあああああ!!」
「うおっ、びっくりした!!」
私の声に驚いた霧島くんが飛び上がる。私は掛布団を体に巻き付け、ガタガタと小さく震えた。
どうしたんだっけ、あれ、何があったっけ昨晩? そんなに飲んだっけ自分!?
必死に記憶を呼び起こしてみると、案外それは簡単に蘇った。私はそんなに飲んではおらず、ビールを四杯頂いた。
普段は飲んでも全く変わらないほどお酒が強いので、ビール四杯で酔うなんてありえない。なのに、昨日はやけにフワフワして、人生で初めて足がふらついて歩けなかったのだ。頭も真っ白で、霧島くんと会話をちゃんと交わせていたのかもよく分からない。
霧島くんが困ったように、『このまま一人で帰らせられませんよ』と言って、それから……なんだっけ?
恐る恐る彼を見てみると、寝起きの眠そうな顔で目を擦っている。
「き、霧島くん……?」
「はい」
「き、昨日って……」
すると彼は意地悪く口角を上げる。
「先輩、疲れてたんですね。普段は全然酔わないのに」
「はっ! もしやなんか盛った!?」
「ちょ、やめてください、俺犯罪しないですって!」
慌てたように言う霧島くんに、確かに彼はそんな事しないよなあと思い直す。でもだって、あんな量で酔いつぶれるなんて考えられない。
「ご、ごめん、そうだよね。びっくりしちゃって」
「疲れてたんじゃないですか? ここ最近色々あったんでしょ。アルコールは疲れてると武器になりますよ」
「そうなのかな……」
確かに大輔と別れたり、霧島くんに告白されたり、薫さんがやってきたりと、私の脳内は忙しなかった。それにそういえば、前の夜はいろいろ悩んであまり眠れていなかった。それも原因の一つなのかもしれない。
「あの、それで……」
「下、見てみたらどうですか」
霧島くんが指さしたので、私は彼に見えないようにそっと布団の中を見てみる。すると、上は脱いでいるものの、スカートも、それからストッキングもそのままだった。
「あ……」
「俺、酔いつぶれてる人に手を出すほど落ちぶれてないんです」
「……ごめん」
「ただでさえ恋愛において先輩から信用ないのに、更に信用失くすような真似しないです」
「……はい」
「ちなみにシャツを脱いだのも先輩ですよ。ったく、俺は必死に布団掛けるしかできなかったんですよ」
「ご、ごめんなさい!!」
私はその場で深々と頭を下げた。なんてことだ、酔って後輩の世話になり家に泊まってしまうだなんて。こんなこと、ありえない。
でも霧島くんは怒る様子もなく、むしろ優しく微笑んだ。
「全然いいですよ。嬉しかったですよ、肩の力抜いてたのかなーって。だって、警戒してる相手と飲んでたらそんなに酒回らないでしょ」
「……ま、まあ、楽しんでたかな……」
「じゃあ、よし。まあ理性と戦うのめっちゃ辛かったですけどね。こんなこと人生で初めてのことだったので、いい経験になりましたよ。寝れたの朝方だったし」
「ご……ごめん」
私は顔を赤くさせてしおしおと小さくなった。私も、こんなの初めての経験だ。お酒で失敗したことなんてなかったし、付き合ってない男性の部屋に泊ったのだって初めて。恥ずかしくて情けなくてたまらなかった。
「俺としてはラッキーだったんで。そんな顔しないで下さいよ。あ、ただ他の男とこんなことしちゃダメですよ?」
「し、しない!」
「……ならよかった」
霧島くんがほっとしたように優しく微笑んだので、私はさらに小さくなってしまう。これじゃあ、霧島くんが特別だと言っているようなものではないか……。
彼は話題を変えるようにベッドから立ち上がる。霧島くんは上下黒の部屋着を着ていた。
「先輩のシャツはこれです」
「あ、ありがとう。ごめんね、すぐに帰るから。このお詫びはまた後日」
「え、帰っちゃうんですか?」
振り向いた霧島くんは、見るからにがっかりした顔をしている。私は小さく何度も頷いた。