クズ男の本気愛
休日を挟んで出勤し、私は気を引き締めて仕事に取り組んでいた。
ちょっと先週はバタバタしすぎた。今週は心穏やかにしていろいろゆっくり考えたいと思っている。大輔はあのあと何も送られてこなかったので諦めたのだと思うが、同期に私が悪役だと言い振り回しているのを何とかしたいし、霧島くんとのことも考えたい。
でも今はとりあえずいろんな問題を後回しにし、目の前の仕事に集中している。私は目立って営業成績がいい方ではないが、取引先の人には『高城さんでよかった』と言ってもらえることもあるので、一つ一つの仕事をしっかり取り組みたいと思っている。ちなみに、あんな軽い感じの霧島くんはとても成績がいいのでずるい。
今回の仕事も、準備万端にしておかないと。
「よし、こっちの準備はいいかなあ」
パソコンと睨めっこをすること数十分。まずは一つの仕事に区切りがつき、肩を回した。するとその時、上司が渋い顔をして私に近づいてきた。
「高城さん!」
「はい?」
なんだか尋常ではない様子だったので背筋が自然と伸びる。彼は眉を顰めた状態で続ける。
「会議、忘れてた? 出席するように言ったはずだけど!」
「えっ……」
上司に言われてすぐに頭の中に予定表が映された。彼が言っている会議とは、今日の午後にあったはずのものではないのか。私は立ち上がり答える。
「それって十四時からじゃ……」
そう言いかけたところに、大きな声が響いてきた。
「あー高城さんー? ここにいたんですか! 会議の変更時間伝えたのに、忘れたんですか?」
薫さんの声に驚いて振り返る。彼女は呆れた様子でこちらに歩み寄り、上司の隣に立った。
「変更……?」
つまりは、開始時間が変更になったようだ。だがどう記憶を探しても、そんなことを聞いた覚えはない。
上司は薫さんを見て顔を綻ばせた。
「いやー、増田さんがフォローしてくれて助かったよ」
「そんな。当然のことをしたまでです」
にっこり笑う薫さんを見てハッとし、私は正直に言う。
「すみません、時間の変更っていつ聞きましたっけ?」
「ええ? 金曜に」
「聞いてないと思うんですが、何か勘違い……」
「えーっ、自分が忘れてたのに私のせいにするの!?」
薫さんがやけに大きな声で言ったので、周囲の視線が集まってきた。多くの人に見られ、私は一瞬狼狽えるが、どう考えても聞いた覚えがないのだからしょうがない。
「でも……」
「私見てましたよー? 増田さん、高城さんに伝えてましたよねえ?」
さらに会話に入ってきたのは中津川さんだった。彼女の方を振り返ると、じっと私を見下した目で見ていた。
薫さんはふふんと鼻を鳴らす。
「ですって。どうする?」
それは勝利宣言のようなものだった。私に伝えた場面を目撃した人がいるとなれば、答えは一つ。私が他ごとに気を取られて聞いていなかったのだ。
私は静かに頭を下げた。
「すみませんでした」
上司が慌てた様子で私のフォローに入る。
「まあそんなこともある。高城さんはいつも真面目にやってくれているから……たまにはこんなミスもあるだろう。今後気を付けて」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
「じゃ、そういうことで」
「薫さんも、ありがとうございました」
彼女にお礼を言うと、薫さんはちらりとだけ私を見た後、何も答えずに去って行ってしまった。
私は再びパソコンに向き直り、心の中でため息をついた。ここ最近いろいろあったから、集中できていないのかな。
……でも、よりによって薫さんから話しかけられたら印象に残ると思うんだけど……。
「ううん、きっとぼうっとしてたんだ」
もっと気合を入れなくては。そう自分に言い聞かせ、私は再び仕事に打ち込みだした。