クズ男の本気愛

 だが相手は全く引かない。

「俺の友達に聞いてみろよ。確かに喧嘩とかしたけど、俺は別れてないってずっと言ってたんだから」

「そんなの証拠にならないよ! だったら敦美に聞いたら分かるよ、私はずっと前に別れたって言ってたんだから!」

 ついヒートアップしてしまいそうなのを、霧島くんが割って入る。

「まあまあ。今はそこは置いておきましょう。俺がはっきりさせたいのはそこじゃなく、この写真についてです。宇野さん、あなたの言い分だとこれは同意の上のキスで、浮気現場ってことであってますか? いつのことですか?」

「そうですねー背後に映ってると思うけどホテル帰りですよ。先週の木曜日だったかな。はは、たまたま誰かが近くにいて取られて拡散されちゃったんですねー」

 息を吐くように嘘をつく男だ。私は拳を握って手を震わせた。

 でもここで、霧島くんの表情も一瞬で変わり真顔になる。

「へえ……」

「いや、すみませんねー俺にも非がありますよね。でもあなたと別れるって言ってたからつい許しちゃって」

「……先輩から話を聞きました。まず、あなたはコンビニの前でガラの悪い男たちに絡まれた先輩を助けて逃げ出し、このホテルの前に連れて行った。そこで隙を見て無理やりキスをして、その一瞬を他の誰かが写真に撮った……」

「いや、そんな都合いい嘘信じますー!? はは、出来すぎでしょ。つくならもう少しましな嘘をつけって」

 笑う大輔と薫さん。周りも、出来すぎた展開に疑念を抱いているようで、戸惑いの視線をひしひしと感じる。だが次の霧島くんの言葉で、周りの雰囲気が一変することになる。

「あの夜、コンビニで働いていた店員に確認しましたよ。先輩が来店した後、ガラの悪い男たちが先輩に絡んで、あなたが助けに入ったってね」

 大輔の笑いがぴたりと止まる。

「その店員によると、ガラの悪い男たちは先輩の後をつけていたかのように現れ、店から出た先輩に絡んだみたいですよ。防犯カメラにも映ってるでしょうね」

「……それが? 俺が璃子を助けてやったってだけじゃないですか。その後盛り上がってホテルに……」

「でね。この後、先輩はあなたに無理やりキスされてショックを受けて、タクシーを捕まえて帰ったんです。それもこの土日で探しました。先輩がタクシー会社を覚えててくれたので聞いてみたんですが、先輩の様子が尋常じゃなかったみたいだから運転手さんも覚えていたようで、案外すぐ見つかりましたよ。さらに、先輩は支払いの時にスマホ決済を使ったので、利用歴が残っています」

「何が言いたいんですか」

 ぎろりと大輔は霧島くんを睨むが、霧島くんは全くおびえない。

「分かんないんですか? さっきあなた言いましたよね? この写真は『ホテル帰り』だって。会社に何時ごろまでいたかは周りの同僚も知ってるし、その後のコンビニの目撃情報やタクシー運転手の話からして、先輩がこの日あなたとホテルに行った時間なんてないんですけど?」

 初めて大輔がぐっと言葉に詰まった。だがすぐに笑って見せる。

「あー勘違いしてた。コンビニで助けた後タクシーで帰らせて、その後時間たってから、夜にまた会ったんですよね。夜中にホテル出て、その時に写真を撮られて」

「馬鹿なんですか? SNSに流出した時間はもっと前だろうが。嘘つくならもっと頭使ってつけよ」

 霧島くんが苛立ったように急に凄んだので、大輔がぐっと言葉に詰まる。だがそれでも、彼は引かなかった。

「いや……そういえば水曜日だったわ。そこで撮られて、SNSで流されたのは翌日の……」

「嘘はつけばつくほど、周りからの信頼がなくなることは覚えておいた方がいい」

 霧島くんがきっぱり言い切ったのを見て、大輔がようやく周りの雰囲気が変わってきたことに気づいた。もはや同僚たちは、私ではなく大輔に疑念の視線を送っているのだ。

 さらに霧島くんは続ける。

「というか、あのコンビニにガラの悪い人がいるのも珍しいって店員さんは言ってたよ。静かな場所にある小さな店だからね。もしかして、先輩に絡んだっていう悪いやつらも、あなたの知り合いなんじゃない? わざと絡ませて、助けて場所を移動させる……仕組んだんじゃないの?」

「そ、そんなわけ……」

「まあ、残念ながら土日だけではそこまでわかんなかったんだけど。
 でも俺、誰がこの写真を撮ってSNSでばらまいたかは知ってるから。ねー増田さん」

 霧島くんがにっこり笑ってずっと黙っていた薫さんに呼びかけた。薫さんは真っ青な顔で俯いている。そんな薫さんを見て、彼はにやりと笑った。

「金曜の夜、増田さんが教えてくれたんですよねー。これ、撮って流出させたのはあなただって」

 一気に職場がざわめいた。私は黙り込む薫さんと大輔を見ていた。
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