クズ男の本気愛
金曜の夜の帰り、薫さんが霧島くんに話しかけたらしい。『璃子さんについて話したいことがあるの』と言っていたとか。
ピンときた霧島くんはそれに乗って、二人で話した。彼が言っていた急用はこれだったのだ。
薫さんは『璃子さんが大輔と浮気をしていた』『写真に証拠も残ってる』『もう別れた方がいい』と力説した。
それを聞いていた霧島くんは、彼女の話に乗って見せた。
『先輩とのことを考えないと……』としおらしくしたらしい。(ちなみに彼曰く、『先輩を守る方法などを考えないといけないという意味なので、噓は言ってない』らしい)
でも薫さんは、霧島くんが別れるつもりなのだと喜んだ。
さらに霧島くんはこう言った。『この写真を撮ってくれた人、誰なんだろう。俺、会ってみたい。どんな状況だったのか知りたくて……もしかしたら先輩が無理やりキスされたっていう可能性がある。ホテルから出てきたところの写真じゃないし』と悩む様子を見せつけた。
すると薫さんは案外すぐに、『実は……』と話し出したらしい。私と大輔がホテルから出てくるのをたまたま見てしまい、写真に撮ったのだと。
「……そんなこと言ったっけ」
薫さんは首を傾けてしらばっくれる。霧島くんはきょとんとした。
「えー言ったじゃないですか。忘れちゃったんですか?」
「なんか勘違いしてない? 私はただ、騙されていた霧島くんが可哀想で話を聞いていただけ。すっかり浮気された男、なんて目で見られてたから……」
そう言った薫さんを見て一度にっこり笑った霧島くんは、無言でポケットからスマホを取り出した。そしてそれを少し操作すると、音声が鳴り出した。
『……そうなの。昨日の夜ね、たまたま歩いていたら、大輔と璃子さんがホテルから出てきて……熱いキスを始めたからつい撮っちゃったの。よくないと分かってたけど、騙されている霧島くんが可哀想で、許せなくて、ついSNSで……わかるよね? あなたを想うからこそなの』
大輔と薫さんの顔が真っ白になった。
ちゃっかり録音までしていたのだ。霧島くんはふうとため息をついて音声を止める。
「増田さんも嘘ついてますね。木曜の夜に二人がホテルから出てきたところを撮影……なんて……それはありえないって、さっき俺証明しましたよね。二人してそんな嘘をつくなんて、怪しすぎるでしょ。コンビニの店員の証言もあるし、先輩が言っていた方が信憑性が高いって、みんな思うんじゃないかなあ」
「……そ、その音声は……」
「あ、今の音声、SNSにアップしちゃったー」
「や、やめて!!」
薫さんが恐ろしい形相で霧島くんに近づき、スマホを奪い取ろうとする。それを軽々とよけられ、彼女は足をもつれさせてその場に転んだ。それを冷たい目で霧島くんが見下ろす。
「っていうか……これまでも先輩にいろいろ嫌がらせしてきたの、あんただろ。大事な商談の時に資料をカバンから抜き取ったり、噓の会議時間を教えたり……先週末も、入力ミスがあっただの提出資料の期限が違っただの、あんたが仕組んだんだろ? 共犯者もいるみたいだけど」
そう言って霧島くんは、隅の方で小さくなっていた中津川さんを見た。彼女は彼の視線に気づき、びくっと反応すると、すぐさま首を強く横に振った。
「にゅ、入力ミスは本当に高城さんのミスです!!」
「入力ミス『は』……?」
霧島くんが小さく首を傾けると、中津川さんはしまったとばかりに目線を泳がせた。同時に薫さんも顔を引きつらせるのを、私たちは見逃さなかった。
霧島くんが続ける。
「じゃあ他はなんだったんですか? 正直に言ってください中津川さん。今、この状況で嘘をつけば後々苦しむのは自分だと思いますよ。俺はすべての真実がわかるまでいつまでもこの問題を追求しますからね。本当のことを言っておいた方が賢明だと、助言しておきます」
中津川さんは、私と霧島くんの顔を見た後、顔色が悪い薫さんと大輔の顔も見た。そして観念したように、小声で話し出す。
「……私……高城さんと霧島さんが仲がいいの悔しくて……少し前、増田さんと会議の時間について揉めてたのを見て、咄嗟に増田さんの味方をしたけど、本当は聞いてませんでした……でもほんと、ちょっとした嫌がらせのつもりだったんです。そのあと、増田さんが高城さんのカバンから書類を抜き取るのも見たけど、黙ってて……」
「黙りなさいよ!!」
薫さんが凄い形相で叫んで中津川さんの元へ行こうとしたのを、霧島くんが片手で止めた。彼はそのまま中津川さんへ質問する。