クズ男の本気愛
 霧島くんは呆れたように頭を搔いた後、すっと二人の間に入った。

「はいはい。もう十分です、今の発言もぜーんぶ録音してます。仕事も始めたいし、あんたたちはもう用済み」

「はあ……!?」

「全部会社に報告します。覚悟してろ」

 ぎろりと霧島くんが二人を睨むと、大輔たちは小さくなってしまった。薫さんは脱力したようにヘナヘナと床に倒れ込む。

 その後すぐに霧島くんが彼らを連れてどこかへ消えていく。まるで嵐が過ぎ去ったようだ。しばらく呆然としていると、どこからか敦美がすっきりした顔でやってきた。

「いやー見事だった! 遠くから見てたよー」

「敦美!」

「これで璃子の潔白はみんな分かったはずだよねえ? さんざん面白がって噂してた人たちは反省して。よかったね璃子、霧島くんってほんと璃子が大好きなんだね!」

 最後の文を特に大声で言い、敦美は私に笑いかけた。恥ずかしくも嬉しくもなり、私は俯きつつ頷く。

 彼のおかげでこうして浮気疑惑が晴れた。私のためにいろいろ調べたり動いてくれて、本当に感謝してもしきれない。

 黙って聞いていた同僚たちもそれぞれ話しかけてくる。

「大変だったね高城さん」

「ごめんね、いつも助けられてるのに私庇えなくて……」

「でも、ほんと霧島くんの本気度がわかったよ。よかったね」

 口々にそう言ってくれるみんなに私は微笑み返した。やっといつも通りの職場が戻ってきた気がした。



 その後、出向でうちに来ていた薫さんはもちろんすぐに来なくなった。出向先で問題を起こしたことで大きな問題になり、クビになったと噂で聞くことになる。

 大輔は、あの後私に絡んできたガラの悪い人たちも仕組んだことだと白状したらしい。友達が多いのは彼のいい所だと思っていたが、そんなことに協力する友達なんていない方がマシだと思った。類は友を呼ぶ、というやつなのか。

 霧島くんが『警察に届け出る』と言ったのを必死に私が止めて(決して庇ったわけではなく、これ以上大事にしたくなかったからだ)会社への報告だけにした。でもこの時代、大輔が行ったことはかなり重く見られ、遠い土地へ左遷された。

 中津川さんは厳重注意で、敦美と霧島くんは不満げだった。でも職場のみんなに白い目で見られることに耐えられなくなったようで、結局すぐに自分で異動届を出していなくなってしまった。



 
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