ぜんぶ、ちょうだい。
ちらりと横を見ると、さっきの女の子が、あの男の子に何かを言っていた。
声は聞こえないけれど、きっと「ありがとうございました」って言ってるんだと思う。
彼は、相変わらず無表情で、何も言わずに頷いただけだった。
(良かった、良かった)
胸の奥が、ふっと軽くなる。何もできなかったけれど…誰かがちゃんと助けてくれたことが、ただ嬉しかった。
改札を抜けて、ホームの柱の前で待っていたひまちゃんと合流する。
「ねえ、ひまちゃん。さっきね――」
駅のホームで、さっき電車で見た出来事を話していたその時。
目の前を、ひとりの男の子が通り過ぎていった。
制服は、私たちと同じ。
歩き方は静かで、でもどこか目を引く。
顔を見ようとしたけれど、あっという間に通り過ぎてしまって…私は思わず、声を漏らした。
「え」
「え?」
ひまちゃんも、同時に反応する。私の視線の先を見て、すぐに言った。
「イズミ先輩じゃない?イズミカオル先輩。高嶺の花で有名な」
その名前を聞いた瞬間、胸がドクンと鳴った。