ぜんぶ、ちょうだい。



ちらりと横を見ると、さっきの女の子が、あの男の子に何かを言っていた。

声は聞こえないけれど、きっと「ありがとうございました」って言ってるんだと思う。

彼は、相変わらず無表情で、何も言わずに頷いただけだった。



(良かった、良かった)



胸の奥が、ふっと軽くなる。何もできなかったけれど…誰かがちゃんと助けてくれたことが、ただ嬉しかった。



改札を抜けて、ホームの柱の前で待っていたひまちゃんと合流する。



「ねえ、ひまちゃん。さっきね――」



駅のホームで、さっき電車で見た出来事を話していたその時。

目の前を、ひとりの男の子が通り過ぎていった。


制服は、私たちと同じ。

歩き方は静かで、でもどこか目を引く。

顔を見ようとしたけれど、あっという間に通り過ぎてしまって…私は思わず、声を漏らした。



「え」

「え?」



ひまちゃんも、同時に反応する。私の視線の先を見て、すぐに言った。




「イズミ先輩じゃない?イズミカオル先輩。高嶺の花で有名な」



その名前を聞いた瞬間、胸がドクンと鳴った。


< 8 / 310 >

この作品をシェア

pagetop