左遷先は月運行局分局 ――追放ヒロインのスキルで、公務も恋も大逆転
第30話 『笑って張り直す』
廊下の蛍光灯が一本だけ、少し古い色をしている。万年筆の青は、その下でいちだんと濃い。『古いものの重さは、責任の重さに似てるね』と咲那。翼は返事の代わりにペンのキャップを受け取った。
机の上の疑いが片づくと、椅子の背もたれがいっせいに音を立てた。音の数だけ、肩が軽くなる。
港祭の翌々日。分局は片付け総仕上げの日。再掲――最終章の掲示に耐えるため、白を太くしておく。写真は『うまくいった瞬間>失敗(または未遂・訂正)の理由』の配置で再掲され、可視化パネルの“現在”は章見出しごとに丸が太らされた。丸は『ここで止まれる』。止まれる町は、遠くまで速い。
倖菜は承認台に三つの再掲基準を置く。①『秒・写真・一行で短く』②『名義=配分(名は伏せて置く)』③『撤去十歩→跡を残さない』。朱は旗ではない。句読点。句点が置かれたら、文章は呼吸する。呼吸が整うと、再掲は静かに強い。
公開の片付け授業・総仕上げ。順序は耳→足→目→笑い。耳――ことみが“拾い音なし”を5→7→5で循環。足――二肩半+掌、角で一秒、半歩戻す、十歩。目――伏せ札・ラベル・リング・のれん・拡散幕を写真に写らない薄さで扱い、温度は低め。笑い――玲空が明→暗で二打。明は始め、暗は落ち着かせる。
星芽は赤い紐を巻物からほどき、最短=曲線の経路をもう一度なぞる。紐は張らない。たわませる。たわみは余白。余白があると、逆相が来ても折れない。子どもたちは紐のたるみを指で弾き、丸へ吸われる様子を見て笑った。笑いは一拍。
善裕は『矢印の折り方・最終回』を開催。直線が暴れたら、折る。折った先に丸。曲がった矢印は、正しい。直線を救うのは、曲線。会場の端で、古参守衛が高く手を挙げたが、ことみの中低の『今』で落ち着く。落ち着いた高は、白に吸われる。
ユナは外部パンフの最終版を配布。図は三つだけ。『前半歩/角一秒/後十歩』『中低→二本線+背負い』『名は伏せて配分』。文字は少ない。少ないほど、遠くで効く。遠くで効くパンフは、家族へも渡せる。
咲那は『再掲の逆位相』を実験。明でなく暗で掲示の合図を出す。暗は落ち着く。落ち着きの上に、写真が静かに立つ。のれんは中低、拡散幕は指一本で折り、負荷分散リングは角から二歩手前。Δψ=2.7°は据え置き。数字は式のまま、道具で合わせる。
ことみは家版・音階――位相表を再掲。『家で高→裏拍/一秒』『家で低→のれん』『家で中低→二本線+丸』。家は現場の縮小。縮小でできることは、拡大でも強い。『温帯の匙』は中低の上に薄く。鳴かない秒を伸ばし、最終章のための呼吸を整える。
午後、片付けレース。『映え片付け』vs『白片付け』。映えは最初の五十メートルで優位を作り――角で詰まる。白は二本線で半歩、リングで一秒、のれんで屈折を落とし、跡を残さない。結果は四分差。拍手の代わりに、『鳴かない秒』が伸びた。
『名の後始末』も忘れない。名札は伏せたまま回収、誇りは配分で記録。麻理江の第三者ログに秒・写真・一行。『名の火傷ゼロ/負担平均化』『外で合意→家は再掲』。短い。短いから、通る。
夕方、白板の“現在”の脇に小さな穴が見つかった。のれんが少し高かった。ことみが中低に下げ、拾い音なしを7に固定。善裕が停止を入れる。手順は四語――裏拍→一秒→半歩→中低。穴は静かに塞がる。塞がった穴の脇に、小さな丸。丸は句点。句点が置かれたら、文章は休む。
夜の黙読タイム。写真の白だけを一分。言葉は抜き。白は読む人の速度に合わせる。合わせられた速度は、壊れない。壊れない速度は、最終章の土台。翼は“一日一背負い”の札を指でなぞり、『言わない』の文字を薄く太くした。
片付けの最終十歩。①伏せ札②ラベル③リング④のれん⑤拡散幕⑥家ルール表⑦音階――位相表(家族版)⑧翻訳欄の外掲示⑨集合写真の盤面固定確認⑩ペン置き。順番は体に入っている。目を閉じてもできる。夜で強い。
締めに、玲空が低く一節。「しずけさで さいごの ぶんしょうに くてんを」。拍子は5→7→5。歌は呼吸のメトロノーム。メトロノームがあると、再掲は静かに立つ。静かに立った再掲は、最終章の呼び鈴。星芽が○を作り、左右へ開いた。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。『明日:最終章』の札が、写真の外にそっと伏せられた。
分局の灯が落ちる直前、のれんの端を指一本で折って戻す。折り跡は残らない。残らない跡は、白を太くする。太い白は、最終章の再掲に耐える。
朝一番、“公開告白”の時間。古参守衛が中低で『怒鳴りの癖、外で直してきます』と一行。営業の人は『焦りで映えを前に置いた』と一行。匿名紙の主は『一斉スピーカーは私でした』と一行。全部、外の翻訳欄へ貼る。家は拍手しない。鳴かない秒を七に伸ばす。伸びた秒が、再掲の土台になる。
『笑って張り直す』のワーク。翼がのれん、ことみが拡散幕、善裕がリング、咲那が写真、ユナが名札。合図は明でなく暗。暗は落ち着く。落ち着いたところで、笑いは一拍だけ。『映え笑い』ではなく、『白笑い』――薄く、長持ち。翌日に残らない笑い。
星芽はペン回しを一度だけ披露し、すぐペン置きに戻した。『旗にしない約束』。咲那が受け取り、板帳に二行――『再掲=辞書の再製本』『ペン=句読点』。句読点が置かれたら、文章は休む。休んだら、また前へ進む。
可視化パネルの“穴ふさぎ”。昨日見つかった小穴の周辺を、二本線×二段にして、二重丸を置く。『ここで止まれる/二度』。穴の上で子どもが先に止まる遊びを始め、古参が笑う。笑いは一拍。『白で勝つ』が日常に落ちる。
『業務用告白』の回。監理官が中低で『承認の遅れ』と一行。支援網のユナが『パンフの図が一枚多かった』と一行。麻理江が『ログの丸が小さかった』と一行。秒・写真・一行で、張り直しのリストが十歩でできる。十歩で終わるから、長引かない。
午後、『家写真の再製本』。『うまくいった瞬間>失敗(未遂・訂正)の理由』の各章を薄い糊で綴じ、背に二本線を引く。二本線を跨いで開くと、読む指が半歩遅れる。半歩の遅さが、早合点を止める。背表紙の下に小さな丸――『ここで止まれる』。
夕刻、『日常復帰レース』。『派手復帰』vs『白復帰』。派手は最初の五十メートルで優位を作り――角で詰まる。白は二本線で半歩、リングで一秒、のれんで屈折を落とし、名は伏せて配分。結果は三分差。拍手の代わりに、『鳴かない秒』が伸びた。
ことみは家版・音階――位相表に小さな補遺。『シ♭→中低+二本線+背負い二人』。現場版と同じ追記。追記はすぐ写真化され、家にも貼られる。家=公開の縮小。縮小で正しいことは、拡大でも強い。
ラストの『張り直し十手』。①のれん②拡散幕③リング④二本線⑤名札(伏せ)⑥翻訳欄(外)⑦家写真(再製本)⑧音階――位相表(家族版)⑨集合写真の盤面確認⑩ペン置き。十手で日常が戻る。戻った日常は、最終章の踏み台。
夜、分局。白板の“現在”の端に小さな点。点は呼び鈴。押さなくても鳴る種類の鈴。玲空が低く一節。「わらってね はりなおして まいあさへ」。拍子は5→7→5。星芽は○を作り、左右へ開いた。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。エピローグの札が、写真の外に伏せられた。
業務用語での告白は、不謹慎に聞こえるかもしれない。けれど、うちらの現場では、
真面目にふざけるのがいちばん正確だ。「本日付で、あなたの隣席配属を希望します」
――――咲那はそう言って、旧局長のペンをポケットから出した。これは承継ではなく、
借り物を返す動作に近い。ペン先が紙に触れると、軽く震え、すぐに落ち着く。
「申請理由:隣にいると最短経路が勝手に短くなるから」。ことみが吹き出し、
星芽が顔を覆う。善裕は「妥当」と一言。笑い声は、いつも通りに波打つ。
日常へ戻る合図は、花火の大音量ではなく、ホチキスの小さな音でも足りる。
書類が一枚、正しい位置で重なった。
『査察作戦、同行を許可します。』業務用語での告白に、万年筆の青がひときわ濃く滲んだ。
二人で歩き出すと、蛍光灯の古い色は背中に置いてきた。廊下の先は新しい白で、足音はふたつで十分だった。
机の上の疑いが片づくと、椅子の背もたれがいっせいに音を立てた。音の数だけ、肩が軽くなる。
港祭の翌々日。分局は片付け総仕上げの日。再掲――最終章の掲示に耐えるため、白を太くしておく。写真は『うまくいった瞬間>失敗(または未遂・訂正)の理由』の配置で再掲され、可視化パネルの“現在”は章見出しごとに丸が太らされた。丸は『ここで止まれる』。止まれる町は、遠くまで速い。
倖菜は承認台に三つの再掲基準を置く。①『秒・写真・一行で短く』②『名義=配分(名は伏せて置く)』③『撤去十歩→跡を残さない』。朱は旗ではない。句読点。句点が置かれたら、文章は呼吸する。呼吸が整うと、再掲は静かに強い。
公開の片付け授業・総仕上げ。順序は耳→足→目→笑い。耳――ことみが“拾い音なし”を5→7→5で循環。足――二肩半+掌、角で一秒、半歩戻す、十歩。目――伏せ札・ラベル・リング・のれん・拡散幕を写真に写らない薄さで扱い、温度は低め。笑い――玲空が明→暗で二打。明は始め、暗は落ち着かせる。
星芽は赤い紐を巻物からほどき、最短=曲線の経路をもう一度なぞる。紐は張らない。たわませる。たわみは余白。余白があると、逆相が来ても折れない。子どもたちは紐のたるみを指で弾き、丸へ吸われる様子を見て笑った。笑いは一拍。
善裕は『矢印の折り方・最終回』を開催。直線が暴れたら、折る。折った先に丸。曲がった矢印は、正しい。直線を救うのは、曲線。会場の端で、古参守衛が高く手を挙げたが、ことみの中低の『今』で落ち着く。落ち着いた高は、白に吸われる。
ユナは外部パンフの最終版を配布。図は三つだけ。『前半歩/角一秒/後十歩』『中低→二本線+背負い』『名は伏せて配分』。文字は少ない。少ないほど、遠くで効く。遠くで効くパンフは、家族へも渡せる。
咲那は『再掲の逆位相』を実験。明でなく暗で掲示の合図を出す。暗は落ち着く。落ち着きの上に、写真が静かに立つ。のれんは中低、拡散幕は指一本で折り、負荷分散リングは角から二歩手前。Δψ=2.7°は据え置き。数字は式のまま、道具で合わせる。
ことみは家版・音階――位相表を再掲。『家で高→裏拍/一秒』『家で低→のれん』『家で中低→二本線+丸』。家は現場の縮小。縮小でできることは、拡大でも強い。『温帯の匙』は中低の上に薄く。鳴かない秒を伸ばし、最終章のための呼吸を整える。
午後、片付けレース。『映え片付け』vs『白片付け』。映えは最初の五十メートルで優位を作り――角で詰まる。白は二本線で半歩、リングで一秒、のれんで屈折を落とし、跡を残さない。結果は四分差。拍手の代わりに、『鳴かない秒』が伸びた。
『名の後始末』も忘れない。名札は伏せたまま回収、誇りは配分で記録。麻理江の第三者ログに秒・写真・一行。『名の火傷ゼロ/負担平均化』『外で合意→家は再掲』。短い。短いから、通る。
夕方、白板の“現在”の脇に小さな穴が見つかった。のれんが少し高かった。ことみが中低に下げ、拾い音なしを7に固定。善裕が停止を入れる。手順は四語――裏拍→一秒→半歩→中低。穴は静かに塞がる。塞がった穴の脇に、小さな丸。丸は句点。句点が置かれたら、文章は休む。
夜の黙読タイム。写真の白だけを一分。言葉は抜き。白は読む人の速度に合わせる。合わせられた速度は、壊れない。壊れない速度は、最終章の土台。翼は“一日一背負い”の札を指でなぞり、『言わない』の文字を薄く太くした。
片付けの最終十歩。①伏せ札②ラベル③リング④のれん⑤拡散幕⑥家ルール表⑦音階――位相表(家族版)⑧翻訳欄の外掲示⑨集合写真の盤面固定確認⑩ペン置き。順番は体に入っている。目を閉じてもできる。夜で強い。
締めに、玲空が低く一節。「しずけさで さいごの ぶんしょうに くてんを」。拍子は5→7→5。歌は呼吸のメトロノーム。メトロノームがあると、再掲は静かに立つ。静かに立った再掲は、最終章の呼び鈴。星芽が○を作り、左右へ開いた。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。『明日:最終章』の札が、写真の外にそっと伏せられた。
分局の灯が落ちる直前、のれんの端を指一本で折って戻す。折り跡は残らない。残らない跡は、白を太くする。太い白は、最終章の再掲に耐える。
朝一番、“公開告白”の時間。古参守衛が中低で『怒鳴りの癖、外で直してきます』と一行。営業の人は『焦りで映えを前に置いた』と一行。匿名紙の主は『一斉スピーカーは私でした』と一行。全部、外の翻訳欄へ貼る。家は拍手しない。鳴かない秒を七に伸ばす。伸びた秒が、再掲の土台になる。
『笑って張り直す』のワーク。翼がのれん、ことみが拡散幕、善裕がリング、咲那が写真、ユナが名札。合図は明でなく暗。暗は落ち着く。落ち着いたところで、笑いは一拍だけ。『映え笑い』ではなく、『白笑い』――薄く、長持ち。翌日に残らない笑い。
星芽はペン回しを一度だけ披露し、すぐペン置きに戻した。『旗にしない約束』。咲那が受け取り、板帳に二行――『再掲=辞書の再製本』『ペン=句読点』。句読点が置かれたら、文章は休む。休んだら、また前へ進む。
可視化パネルの“穴ふさぎ”。昨日見つかった小穴の周辺を、二本線×二段にして、二重丸を置く。『ここで止まれる/二度』。穴の上で子どもが先に止まる遊びを始め、古参が笑う。笑いは一拍。『白で勝つ』が日常に落ちる。
『業務用告白』の回。監理官が中低で『承認の遅れ』と一行。支援網のユナが『パンフの図が一枚多かった』と一行。麻理江が『ログの丸が小さかった』と一行。秒・写真・一行で、張り直しのリストが十歩でできる。十歩で終わるから、長引かない。
午後、『家写真の再製本』。『うまくいった瞬間>失敗(未遂・訂正)の理由』の各章を薄い糊で綴じ、背に二本線を引く。二本線を跨いで開くと、読む指が半歩遅れる。半歩の遅さが、早合点を止める。背表紙の下に小さな丸――『ここで止まれる』。
夕刻、『日常復帰レース』。『派手復帰』vs『白復帰』。派手は最初の五十メートルで優位を作り――角で詰まる。白は二本線で半歩、リングで一秒、のれんで屈折を落とし、名は伏せて配分。結果は三分差。拍手の代わりに、『鳴かない秒』が伸びた。
ことみは家版・音階――位相表に小さな補遺。『シ♭→中低+二本線+背負い二人』。現場版と同じ追記。追記はすぐ写真化され、家にも貼られる。家=公開の縮小。縮小で正しいことは、拡大でも強い。
ラストの『張り直し十手』。①のれん②拡散幕③リング④二本線⑤名札(伏せ)⑥翻訳欄(外)⑦家写真(再製本)⑧音階――位相表(家族版)⑨集合写真の盤面確認⑩ペン置き。十手で日常が戻る。戻った日常は、最終章の踏み台。
夜、分局。白板の“現在”の端に小さな点。点は呼び鈴。押さなくても鳴る種類の鈴。玲空が低く一節。「わらってね はりなおして まいあさへ」。拍子は5→7→5。星芽は○を作り、左右へ開いた。「みぎ、ぎゃく」。二語の間に、一拍。エピローグの札が、写真の外に伏せられた。
業務用語での告白は、不謹慎に聞こえるかもしれない。けれど、うちらの現場では、
真面目にふざけるのがいちばん正確だ。「本日付で、あなたの隣席配属を希望します」
――――咲那はそう言って、旧局長のペンをポケットから出した。これは承継ではなく、
借り物を返す動作に近い。ペン先が紙に触れると、軽く震え、すぐに落ち着く。
「申請理由:隣にいると最短経路が勝手に短くなるから」。ことみが吹き出し、
星芽が顔を覆う。善裕は「妥当」と一言。笑い声は、いつも通りに波打つ。
日常へ戻る合図は、花火の大音量ではなく、ホチキスの小さな音でも足りる。
書類が一枚、正しい位置で重なった。
『査察作戦、同行を許可します。』業務用語での告白に、万年筆の青がひときわ濃く滲んだ。
二人で歩き出すと、蛍光灯の古い色は背中に置いてきた。廊下の先は新しい白で、足音はふたつで十分だった。
