子供ができていました。でも、お知らせするつもりはありませんでした。
 ***



 通常とはとても異なるプロポーズをした佑は、肩の荷が下りたのか、ずっと手付かずだったティーに手を伸ばした。
 このような提案は、即答できるものでない。美月も佑に倣って、ティーカップを手に取った。
 美月の隣にいる拓海も空気を読んだのか、大人ふたりの仕草に合わせてオレンジジュースを飲みはじめた。

「私としては、認知していただけるだけで結構です。出産は私の独断ですし、知らせなかったのは支援などを要求するつもりではないからです」
 
 軽くのどを潤してから、美月は自分の考えを口にした。そもそもが、勝手に産んで、勝手に育てているのである。

「あなたはそれでいいかもしれないが、その子はそうとは限らない。母親がシングルマザーということで、今後、不条理な扱いを受けないとも限らない。父親として、私は父親の義務と責務を果たすつもりだ」

(拓海のことを、その子呼ばわりするくせに、父親の責務ねぇ~)

 佑の言葉だけを文字に起こせば、極めて誠実な父親になる。でも、彼のセリフには、未だに実子の名『拓海』が入っていない。それがどうも美月は気に食わない。

「あの、私、今の仕事を続けたいのです。入籍するとなると、いろいろ制約がありそうで、あなたの要望に応じることはできないと思います」

 ひとりで出産して子供を育てるには、覚悟していても、やはり助けの手が必要となる。そこは、美月自身の母と先輩同僚の有紀に協力をお願いできた。
 体が動けるうちにと、美月は母の住む地区へ勤務エリア移動希望を出した。待遇は降格となったが受理されて、引っ越しをした。普段はリモートで業務を行い、必要になって田舎支社から東京本社へ上京する際には有紀を頼るという形を整えたのである。
 もちろん、協力をお願いする有紀にはシングルマザーとなった所以を、半分くらい話した。半分くらいというのは、子供の実父が『例の問題児』であることを秘密にしているから。だってこれ、父親が父親だけに、おいそれと公開できない案件である。

 そんな美月の現状を知ってか知らいでか、涼しい顔をして佑は答えた。

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