子供ができていました。でも、お知らせするつもりはありませんでした。
不意に雨が遮られて、佑は驚いた表情になる。雨に打たれているという自覚はあったようだ。
いまこうして美月の傘に入れてもらえたわけなのだが、海外で親切にされたことが信じられないのか、それとも日本語で話しかけられたからなのか、その親切な人が日本人であったからなのか、佑は大きく目を見開いて、美月のことを見下ろした。
整った口元が動く。何か言葉を発しようとして。
だがそのセリフは空音で、言葉になっていなかった。でも、何かを告げようとしているのはわかる。
きっと、社交辞令の謝辞に違いない。そう美月は思っていた。
「大丈夫ですか? ずぶ濡れですよ」
本人確認などせず、美月は日本語で話しかけた。
「あ、はい」
「近くの売店まで、ご一緒します。そこで傘を買えば、これ以上、濡れないでしょう」
「あ、はい」
美月の提案に、ひどく歯切れの悪い佑の回答である。あの意気揚々とヨーロッパ人相手にプレゼンをしていた人物とは思えない。
一方の美月は、のん気にこう思う。
(ビジネスモードとオフの反動が大きい人なのかもしれない)
(あの会場だもん、緊張が解けて、いま脱力しているんだろうな~)
佑は創業家一族で、ヨーロッパのビジネスショーに社を代表して派遣される優秀な人。だけど、こんな気の抜けた姿をみてしまえば、一般人の美月とは縁のない創業家も同じ人間だとわかる。なんだか、美月はほっとできた。
「どの方面にお帰りですか? 傘が残っていればいいんだけど」
「あ、はい。そうですね……」
傍からみれば、停留所に向かう黒髪の男女ふたり組の相々傘ができあがっていた。
いまこうして美月の傘に入れてもらえたわけなのだが、海外で親切にされたことが信じられないのか、それとも日本語で話しかけられたからなのか、その親切な人が日本人であったからなのか、佑は大きく目を見開いて、美月のことを見下ろした。
整った口元が動く。何か言葉を発しようとして。
だがそのセリフは空音で、言葉になっていなかった。でも、何かを告げようとしているのはわかる。
きっと、社交辞令の謝辞に違いない。そう美月は思っていた。
「大丈夫ですか? ずぶ濡れですよ」
本人確認などせず、美月は日本語で話しかけた。
「あ、はい」
「近くの売店まで、ご一緒します。そこで傘を買えば、これ以上、濡れないでしょう」
「あ、はい」
美月の提案に、ひどく歯切れの悪い佑の回答である。あの意気揚々とヨーロッパ人相手にプレゼンをしていた人物とは思えない。
一方の美月は、のん気にこう思う。
(ビジネスモードとオフの反動が大きい人なのかもしれない)
(あの会場だもん、緊張が解けて、いま脱力しているんだろうな~)
佑は創業家一族で、ヨーロッパのビジネスショーに社を代表して派遣される優秀な人。だけど、こんな気の抜けた姿をみてしまえば、一般人の美月とは縁のない創業家も同じ人間だとわかる。なんだか、美月はほっとできた。
「どの方面にお帰りですか? 傘が残っていればいいんだけど」
「あ、はい。そうですね……」
傍からみれば、停留所に向かう黒髪の男女ふたり組の相々傘ができあがっていた。