子供ができていました。でも、お知らせするつもりはありませんでした。
 美月は悩む。
 昨日の佑とは、とても話が合って、トラム乗車中に話が途切れることはなかった。その話題は大した内容ではない。ごくごく普通のベルギーでのこと、あれこれだ。知性とか教養とかいう以前のたわいないもの。

(あ、そっか! あれだよ! 私は見合い相手でもないし、通りすがりの人だから)

「あとは……そうねぇ~、 あの問題児、他に好きな人がいて認めてもらえないってパターンかな?」
「御曹司と一般人との恋、ってところですか?」
「そう、それよ! あり得そうじゃない? 大学時代の同級生とか」
「大学でできたカノジョだと知性も教養もあるけど、家柄が釣り合わないってことになるのかな? これもある種の政略結婚のパターンですよねー」
「まあ、我々庶民とは世界の違う人の話だから。あるところには、やっぱりあるんじゃない」

 明るく有紀は笑い飛ばす。もう芸能人のゴシップネタレベルである。
 世界の違う人の話――美月もそう思う。同じ日本人だけど、佑は別の国の人のようでもあった。なんといえばいいのか、住んでる階層が違うというか。短時間の接触だったけど、品格の欠片のようなものをたくさん美月は佑から感じ取った。
 軽いチャイム音が響いて、搭乗開始のアナウンスが流れる。佑の話はこれでおしまいとなり、ふたりは機上の人となった。



 帰国して、一ヶ月が過ぎた頃だろうか、ある異変に美月は気がついた。

(まさか、こんなご縁が残っていたとは!)

 妊娠検査薬の結果をみて、美月はここ数日の体の不調に納得した。何度、日付を数え直しても、受精はベルギーでのビジネスショーの日になる。
 そう、美月は佑との別れが名残惜しくて、「もう少し、話をしたいんだけど……」の彼のセリフに頷いてしまった。そのまま佑のアパートメントへいき、そこでひと晩を過ごしたのだった。

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