キミの隣は俺の場所
楓が、ポケットから何かを取り出して、無言で私に差し出した。


 それは、小さな――チョコレートバーだった。


 昨日、私がナンパから逃げたあと、自販機で買おうとして、うまく出てこなかったやつ。


 そのとき、彼が黙って取ってくれて、私に渡した――あのチョコ。


 
 「……やっぱり、あなただったんだ」


 そう言うと、彼は、少しだけ口元をゆるめた。


 「……バレたか」


 「嘘ついてたの?」


 「……めんどくさそうだったから」


 ぽつりと返されたその言葉に、私はなんとも言えない気持ちになった。


 (“めんどくさそう”って……なに、それ)


 でも、なんだか、ほんの少しだけ。


 彼との距離が、縮まった気がした。
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