キミの隣は俺の場所
ふと、楓の指先がぴくりと動いた。
私はその変化にすぐ気づいて、顔を上げた。
眠っていたはずの彼のまぶたが、ゆっくりと動く。
「……楓?」
呼びかけると、彼はわずかに眉をひそめて、薄く目を開けた。
「……ここ、どこ……?」
掠れた声。それでも、しっかりとした意識のある瞳。
私は思わず笑って、涙が滲んだ。
「もう、大丈夫……! 病院じゃないよ、うち。
ずっと看病してたんだから。覚えてる?」
楓はしばらく視線を彷徨わせてから、
ようやく私の顔に焦点を合わせた。
「……陽菜……?」
「そう、私。寝てる間、何回も熱測って、冷やして、
薬も用意して……って、まだ飲んでなかったね」
慌てて立ち上がろうとすると、楓が弱々しく手を伸ばしてきた。
「……行かないで」
その一言に、私はまた座り直して、彼の手を包み込んだ。
「行かないよ。どこにも。……ずっといるって言ったでしょ」
楓の目が少し潤んで、かすかに微笑んだ。
「……変な夢、見てた。陽菜が、いなくなる夢」
私は言葉を失った。
彼の声は震えていて、それがどれだけ怖かったのかが伝わってくる。
「……私は、ここにいるよ。もう離れないから」
楓はまぶたを閉じて、小さくうなずいた。
その顔には、さっきまでの苦しげな表情はなく、
静かで穏やかな安堵が宿っていた。
私は彼の手をぎゅっと握り返した。
ただ、彼が目を覚ました――それだけのことなのに、
こんなにも嬉しくて、泣きそうになるなんて。
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