キミの隣は俺の場所
楓が目を覚ましたことで、心の奥に張り詰めていた何かが、ふっと緩んだ気がした。
私はそっと立ち上がり、水の入ったコップを彼の枕元に置く。
「少しだけでも、水、飲める?」
楓はゆっくりと頷いた。
私はコップを持って、彼の唇にあてがう。
彼はほんの少しだけ口を開けて、水を一口飲んだ。
それだけのことなのに、私は胸がいっぱいになった。
「……ありがとう」
楓がそう呟いたとき、私は思わず笑った。
泣きそうな顔のまま、でも安心して。
「もう何回目かわからないよ、その言葉。
でも……そのたびに、救われてるんだよ、私」
楓は照れたように視線をそらして、少しだけ苦笑した。
「……情けないな、俺。
起きたら陽菜が泣きそうな顔で笑ってるし」
「泣いてないし」
「泣きそうって言ったじゃん」
「うるさい。病人は黙って寝てなさい」
冗談を言えるくらいには、楓の声に力が戻ってきていた。
そのことが何より嬉しくて、私の中で何かがじんわりと溶けていく。
ふと、時計を見ると、もう深夜を過ぎていた。
「少し寝ようか。私もここで一緒にいるから」
そう言って、私は彼の横にある小さな布団に潜り込んだ。
手はずっと繋いだまま。
温もりがそこにあるだけで、安心できる。
カーテンの隙間から、月の光が差し込んでいた。
白くてやさしい光が、楓の顔を柔らかく照らしている。
「……なあ、陽菜」
「ん?」
「俺、前にさ……陽菜に言いかけたこと、あったよな」
「……え?」
思わず息をのんだ。
楓の言葉の続きを、私は知っている気がした。
でも、知らないふりをしていた。怖かったから。
もしその言葉が、望んでいない方向に向かってしまったら――そう思うと。
だけど、今の楓は、もう逃げない顔をしていた。
「ちゃんと、治ったら言うよ。
もう、ごまかしたくないんだ」
私はその言葉に、静かに頷いた。
「うん。待ってる。……絶対、治してね」
楓の手を、そっと強く握り直した。
「お前がいるなら、絶対、大丈夫な気がする」
それは強がりじゃない、確かな声だった。
夜はまだ深く、静かだったけれど――
私たちの間に流れる時間は、どこかあたたかかった。
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