完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する
「こちらのシステムですが、現在のECサイトとの連携部分で気になる点があります」
私は資料を指差しながら、質問を投げかける。
これが私の本来の姿だ。冷静かつ的確に問題点を洗い出す、プロジェクトマネージャーとしての新谷梓。
「セキュリティ面での懸念はいかがでしょうか。特に、決済システムとの連携において、二重認証の部分で……」
私の質問に、桐原社長の表情が微かに変わる。
「さすがですね、新谷さん」
桐原社長の言葉に、頬がほんのり温かくなる。
仕事の評価なのに、どうしてこんなにも嬉しく感じるのだろう。
商談が進む中、私は同僚の田中主任と技術的な詳細について話を始めた。
田中主任は気さくな人柄で、普段からよく冗談を交えて話してくれる。
「新谷さん、そのアイデアいいですね。さすがです」
田中主任の笑顔に、私も自然と笑顔で応じる。
「ありがとうございます。田中さんのおかげで、より良い提案ができそうです」
これが職場での私の日常だ。同僚との何気ないやり取り、信頼関係に基づいた仕事ぶり。
「こほん」
その瞬間、桐原社長が軽く咳払いをした。
「申し訳ございません。時間の関係で、次の議題に移らせていただけますでしょうか」
彼の声音が、なぜかいつもより低く感じられる。
視線を向けると、彼の表情がほんの少し険しくなっているような気がした。
でも、きっと気のせいだろう。