完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する

商談が終わり、桐原社長たちを見送った直後のことだった。

私のスマホが急激に鳴り響く。

「はい、新谷です」

「梓さん、大変です! ECサイトに重大なバグが見つかりました」

部下の声が緊急事態を告げる。

血の気が引く思いで詳細を確認すると、老舗アパレル企業のサイトで決済システムに深刻な不具合が発生している。

このままでは、明日の正式オープンに間に合わない。

「分かりました。今から戻ります」

電話を切った瞬間、エレベーターホールで桐原社長と鉢合わせになった。

彼は、私の血相の変わった様子に即座に気づいたようだ。

「新谷さん、何かあったのですか?」

その声には、いつものビジネスライクな距離感とは違う、個人的な心配が込められていた。

「申し訳ございません。緊急事態が発生しまして……」

私は状況を簡潔に説明した。

「今日の午後の打ち合わせは延期させていただき、明朝までに修正いたします。貴重なお時間をいただいてしまい、申し訳ありません」

深く頭を下げる私の肩に、突然温かな手が置かれた。

「!」

「構いませんよ、新谷さん」

顔を上げると、桐原社長が心配そうな表情でこちらを見つめている。
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