完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する

【圭佑side】

俺は駅から離れた後も、新谷梓──いや、梓のことが頭から離れなかった。

今夜の彼女は、いつもの完璧なプロジェクトマネージャーとは違って、どこか儚げで、守ってあげたくなるような魅力に溢れていた。

「本当の自分でいられる時間」──彼女が旅行の話をしている時の表情は、とても美しかった。きっと彼女も、俺と同じように日常の仮面に疲れているのだろう。

そして、俺が「梓さん」と呼んだ時の頬の赤らみ。

あの瞬間、俺は彼女をもっと近くに引き寄せたい衝動に駆られた。

彼女と名前で呼び合える関係になれた。それだけで、俺たちの距離は確実に縮まった。

でも、まだ足りない。俺は、彼女の全てを知りたい。仕事での完璧な姿も、婚活パーティーでの不器用な笑顔も、疲れて髪を乱して作業する姿も。

全部を知って、全部を愛したい。

椅子に座り、窓の外の夜景を見つめながら考える。

俺の人生は、常に他人によって決められてきた。

大手財閥・桐原グループの御曹司として生まれ、将来は父親の用意した結婚相手と政略結婚することが既定路線だった。

水沢(みずさわ) 麗華(れいか)。父親が用意した婚約者だ。

美しく知的で、社交界でも評判の女性。だが、俺は彼女と話すたび、計算された笑顔の裏に別の何かを感じ取ってしまう。

彼女が求めているのは、俺という人間ではなく、桐原という名前なのだと。
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