完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する

「もし、圭佑さんが結局麗華さんを選ぶなら。もし、私が単なる息抜きの相手だったなら。そう思うと、怖いんです」

圭佑さんの表情が、苦しそうに歪んだ。

「君は、息抜きなんかじゃない。君は僕にとって……」

彼が言葉を続けようとした時、私は立ち上がった。

「でも、現実を見なくてはいけません。あなたには、背負うものがある。家も、会社も、そして……麗華さんも」

「梓さん──」

「私、考える時間が欲しいです。今すぐには、答えられません」

圭佑さんが私の腕を掴んだ。その手は震えている。

「待ってくれ。もう少しだけ、話を……」

「ごめんなさい」

私は振りほどいて、カフェを出た。

外は既に暗くなっていた。夜の冷たい空気が、火照った頬に当たる。

後ろから圭佑さんが追いかけてくる足音が聞こえたが、私は立ち止まることができなかった。

「梓さん!」

彼の声が背中に届く。でも、振り返れば決心が揺らいでしまう。

涙が頬を伝って流れ落ちるのを感じながら、私は歩き続けた。

圭佑さんの気持ちは、本物なのかもしれない。でも、それだけで乗り越えられる問題なのだろうか。

家族の期待、会社の未来、婚約者の存在──全てが、私たちの間に立ちはだかっている。

そして何より、私は怖いのだ。

圭佑さんを信じて、すべてを賭けて、それでも最後に傷つくことが。

でも──心の奥で小さな声が囁く。

それでも、彼を信じたい。彼の言葉を、信じたい。
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