完璧な社長は、私にだけ素顔を見せて溺愛する

【梓side】

夕方、私は指定された場所に向かった。以前、圭佑さんと初めて二人きりでコーヒーを飲んだカフェ。

入口の前で立ち止まると、中に圭佑さんの姿が見えた。

いつものスーツ姿だったが、どこか疲れたような、でも決意に満ちた表情を浮かべている。

私を見つけた瞬間、その瞳に強い光が宿った。

「梓」

ドアを開けて入ると、圭佑さんが立ち上がって私を迎えてくれた。名前で呼ぶ彼の声に、私の心が大きく揺れた。

「来てくれて、ありがとう」

「圭佑さん……」

私たちはテーブルを挟んで座った。圭佑さんは真っ直ぐ私を見つめる。

「昨夜、眠れなかったか?」

「はい……圭佑さんは?」

「僕も。君のことばかり考えていた」

その言葉に、私の胸が温かくなる。

「でも、約束通りすべて解決した」

圭佑さんが切り出した。

「父には、はっきりと自分の意思を伝えた。麗華さんとの婚約も正式に破談にした」

「本当……ですか?」

「ああ。父は激怒した。会社を継がないなら、財産も名前も捨てろと言われた」

圭佑さんの声が震えている。

「でも、構わない。君を失うくらいなら、全てを捨てる覚悟だった」

私の目から、涙が溢れ始めた。

「圭佑さん、そこまで……」

「梓」

圭佑さんが私の手を取った。その手は温かくて、少し震えていた。

「僕は、はっきりと言う……いや」

圭佑さんが言葉を切った。

「もう『僕』じゃない。本当の俺を見てほしい」

彼の声が、今までとは違う力強さを帯びる。
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