下剋上御曹司の秘めた愛は重すぎる
私たちの間に何か起こることを期待しなかったわけではない。結局のところ何も起こらなかったけど。

時々、良い雰囲気になりかけたことはあった。でもそんな時、伊吹くんはあえてその場の空気を変えるような発言や行動をした。

――彼は私と付き合う気はない。それには気づいていた。でもその理由もわかっている。

彼には時間的にも経済的にも余裕がない。他に優先するべき大事なものがある。女の子と付き合っている暇などないのだ。

だけど私は彼の事情を知っている。だから頻繁に会えなくても文句なんて言わないし、『付き合っている』『伊吹くんの彼女』という証があれば、それだけで充分だと思っていた。

でも彼がそうしないのは、私に付き合いたいと思えるほどの情熱を感じられないから。悲しいけど魅力を感じてもらえないのだろう。

それでも大学4年生のクリスマス、私は最後に思い切って彼に告白することを決めた。


この日は、久しぶりに伊吹くんに会える日だった。

伊吹くんは大学3年生の半ばから、時々新幹線で東京へ通っていた。彼の祖父母から呼ばれているのだと彼は話していた。

私たちは東京で就職活動をしていて、私はE&Eトラベルという旅行会社の東京本社に内定が決まった。

だけど伊吹くんは就活を途中でやめてしまった。なんでも「じいさんの仕事を手伝うことになった」からだそうだ。

そして、おじいさんがお母さんの治療費を出してくれることになったらしい。

『息子とは喧嘩をして長いこと疎遠になっていた。そのため孫の伊吹への経済的支援が遅くなってしまった』

祖父母は伊吹くんにそう詫びてきたのだと言う。

「じいさんはもう年だから、俺が何とかしてやらないと」

伊吹くんの口調から、私は勝手に個人商店か職人的な仕事だと勘違いしていた。
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