下剋上御曹司の秘めた愛は重すぎる
「東京に行ったら、これまでの貧乏バイト生活よりも、さらに過酷な日々が待っている。はるちゃんとは一緒に東京に行ったとしても、今までみたいに会って話す時間は取れないかもしれない」

決意の込められた目でまっすぐ私を見ていた彼は、最後だけ伏し目がちに俯いた。

――会って話すことはできなくてもいい。繋がりさえ断ち切られなければ。だけど、それすらもう叶わないようだ。

「きっと、はるちゃんと会うのはこれが最後になる。今までありがとう。東京での生活は身体に気をつけて。君に幸せになって欲しい。それじゃあ」

最後に彼はふわりと微笑んだ。大好きだった柔らかい笑顔。今は切なさを携えて。

それだけ伝えると彼は私に背を向けた。そして、車道から「伊吹さん」と深みのある男性からの声に呼びかけられると、停車していた車に乗り込んだ。運転席には20代半ばくらいに見える男性がいるのが見えた。

そのまま車は走りだした。

取り残された私は、ただ茫然としていた。

夕暮れの街に流れるクリスマスソング、点灯を始めるイルミネーション。

それだけが今でも脳裏に焼き付いている。


それからは、卒業するまでついぞ彼を見かけることはなかった。卒業式には来ていたようだが、用件を終えたらすぐ帰ってしまったらしい。

無論、追いかけるつもりはなかった。失恋どころか、友達としても縁を切られてしまったのだから。
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