下剋上御曹司の秘めた愛は重すぎる
4月、私は東京の文京区に本社のあるE&Eトラベルに入社した。研修後は現在いる法人営業部に配属された。

なぜ旅行業界を選んだのかと言うと、

「お金があったら、はるちゃんと一緒に歴史探訪の旅に行きたいな。面白いツアーやコースを自分たちで色々考えてさ」
「わっ、それいいね、面白そう!」

伊吹くんと話した、たわいもないそんな会話がきっかけになった。ただそれだけだった。

しかし実際に働いてみると、これが意外にも性に合っていることに気がついた。配属先と相性が良かったのだろう。

色々な企業に出向いたり、出張したり、自分で企画を立案したり。忙しく飛び回るのも、没頭して企画を考えるのも、苦労も多いがやりがいがある。


だけど、恋だけはできなかった。

伊吹くんを引きずっていないと言えば嘘になる。でも付き合っていたわけでもないのに引きずるというのも、なんだかおこがましいような気がして。

告白して振られたわけではないけど、あれは明確に振られたのだと考えている。

同期や同僚に誘われて合コンに行ったこともあるし、グループで遊びに行ったこともある。その中で私を気に入ってくれた人も何人かいた。でも連絡先の交換を求められると、どうしても拒絶反応がありためらってしまう。

――伊吹くん以外の人と関係を進めたくない。これは私のただのわがままだ。独りよがりで、自分勝手だ。

誠意を持って対応しようとしてくれた相手の人に申し訳ないし、伊吹くんにとっても何年も未練がましく思われるのは気持ち悪いことだろう。

それなのに――あのキラキラした伊吹くんとの日々があまりにも眩しくて、どうしても心から消えてくれない。

独り、マンションの部屋に帰り、泣いた。
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