下剋上御曹司の秘めた愛は重すぎる
ゆっくりと3人で会話をして、私たちは興津家を後にした。

夕方の海沿いの街、散歩がてら駅までの道のりを少し遠回りして私たちは歩いていた。

そこで私は伊吹くんにずっと気になっていたことを尋ねた。

「ねえ、伊吹くん。本当に私が結婚相手で良かったの?」

「どうして、そんなこと……」

伊吹くんは面食らったかのように驚いた顔をしていた。

「お付き合いしていた人や好きな人がいたんじゃないの?」

私が再び問いかけると、伊吹くんは一瞬黙ってしまい、

「ずっと好きだった人はいるよ」

次の瞬間、ぼそりとそう呟いたのだった。

(やっぱり……)

その好きだった人とはどうなったんだろう? 入籍する前にもっときちんと聞いておけば良かった。

今さら身を引くのは辛い。だけど他の人を想う彼と一緒にいるのはもっと辛い。

(さっき夏子さんに『伊吹をよろしく』と頼まれたばかりなのに……)

だけど私じゃだめなんです。心の中では泣き叫びそうになっていた。

「伊吹くん、だったら……」

自分でも何を言いかけているのかわからなくなっていた。そんな私を伊吹くんは見つめた。

「ずっと好きだった人とは結婚できたから」

「えっ……」

「俺は、はるちゃんのことがずっと好きだったよ」

海からの風が吹きぬける。今、私たちは向かい合って2人きり。

「初めて会った頃から、ずっと、はるちゃんだけが好きだった」

伊吹くんの私を見つめる視線が熱い。私は感極まったまま目が離せなかった。
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