下剋上御曹司の秘めた愛は重すぎる
そして夕食の後、チョコを食べながら伊吹くんからこんな話がされた。

「広大な屋敷を相続する問題は、実は若宮の周囲の家でも起きているんだ。俺たちの親世代、そして俺たちの世代ではなかなかに難しい。隣の宝生寺さん家でも同じだ」

隣の宝生寺さん……そちらの１人娘・鞠花さんからは元旦に挨拶した際に手痛い洗礼を浴びた。

「どこの馬の骨だかわかない女に、伊吹くんが攫われてしまうなんて……」

彼女のその発言にはさすがにムッとした。我が家はまっとうに暮らしているし、身元も保証されている。会社で仕事をしてきちんと税金を納めている。だから『どこの馬の骨』なんて言われる筋合いはないのだ。

これには少々言い返そうと思っていたら、

「でも、伊吹くんに嫌われるようなことはしたくないから、仕方ないけど諦めるしかなさそうね……」

はぁと彼女は溜息をついた。

鞠花さんは約６年前に突如として隣家に現れた伊吹くんに一目惚れしたらしい。そして何かと彼の世話を焼いていたが、告白して彼に振られてしまった。

それでも諦められなかったようだが、伊吹くんが大事な出来事の前には必ず、

「はるちゃん、俺はやるよ。必ずやり遂げて、はるちゃんを迎えに行く」

そうブツブツと呟いて必勝祈願をしているのを何度も目の当たりにして諦めがついたのだと言う。


そして話は戻るが、若宮家のお屋敷の周囲には似たようなお屋敷が数軒ある。

「その土地をホテルロイヤルヴィリジアンが買い取って別館を作る。くれぐれも内密に頼むよ」

「えぇっ……！　もちろん絶対に厳守します。でも……すごい」

伊吹くんの話を聞いて、私は驚きを隠せなかった。
< 36 / 38 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop