解けない魔法を このキスで
大階段を下りてガーデンに足を踏み入れると、穏やかな秋空の下、白いクロスを掛けたガーデンテーブルにスタッフがカップルを案内していた。

「やはりドレスの発表は終わってしまったようですね」

ガーデンの中央に設けられたステージを見ながら、支配人が残念そうに呟く。
花で飾られたステージの上には誰もおらず、スタッフとカップル達はガーデンのあちこちで相談会に移っていた。

「ドレス素敵だったね!」などと彼に話している女性達の明るい表情から、新作ドレスが好評だったことがうかがえる。
既にここでの挙式を決め、日取りの相談に入っているカップルもいた。

しばらくその様子を見守っていると、少し離れたテーブルの女性スタッフがなにやら考え込んでいるのが目についた。
どうしたのかと思っていると、ふと視線を上げてこちらを見たスタッフは「少々お待ちいただけますか? 相談してまいります」とカップルに言い残し、高良と支配人のもとに駆け寄って来た。

「支配人、お客様からのご相談なのですが……」
「はい。どうしましたか?」
「花嫁様が、ぜひソルシエールのドレスを着たいとおっしゃっているのですが、式場はご招待するゲストのご都合で、ここではなく『プラージュ横浜』にしたいそうです。『プラージュ横浜』はソルシエールと契約していないので、改めて『プラージュ横浜』のブライダルサロンで別のドレスを選んでいただきたいとお伝えしたのですが、それならソルシエールのドレスを持ち込みにしたいと。その場合、やはり持ち込み料が発生しますよね?」
「そうですね、そういう決まりですから」
「そう申し上げたところ、新郎様が『同じ系列のホテルなのにおかしいのではないか?』とおっしゃって……」
「うーん……。お気持ちは分かりますし、こちらも心苦しい限りですが、他のお客様からも同様に持ち込み料を頂戴していますからね。例外を認める訳にはいかないのです」

ですよね、と女性スタッフは視線を落とす。

「もう一度そうお話ししてみますね。こうやって支配人にも確認した、というところをお見せ出来たので、分かっていただけるかもしれません」

そう言って戻ろうとするスタッフに、高良が提案した。

「持ち込み料はいただきますが、その分、他でサーピスさせていただくと話してください。例えばお料理のグレードアップや、フォトアルバムのロケーション追加、披露宴の演出のサービスなどで」
「えっ、よろしいのですか?」
「はい。交渉はあなたにお任せします」
「ありがとうございます! そうさせていただきます」

女性スタッフは高良にお辞儀をすると、笑顔でカップルのテーブルに戻っていった。
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