解けない魔法を このキスで
ワインが運ばれてくると、三人で乾杯する。
透き通るように綺麗なピンク色のワインは、フルーティーで飲みやすく、美蘭は美味しさにうっとりした。

「お口に合いましたか?」
「はい、とても美味しいです」
「それなら良かった」

そう言って優しく微笑む高良を、美蘭はじっと見つめ返す。

「どうかしましたか?」
「いえ、あの。今日は随分印象が違うなと思いまして」
「印象というのは、私の? どういう印象をお持ちでしたか?」
「それは……」

美蘭は、真顔で仁王立ちしていた高良を思い出し、口をつぐんだ。

「どうやら酷い印象のようですね」
「いえ! 違うんです。硬派なイメージでしたが、今は軟派というか」
「ナンパ……」
「あっ、そのナンパではなくてですね」

もう見ていられないとばかりに、隣で未散が口を開く。

「新海さんは、ここのペントハウスにお住まいなんですよね? 『フルール葉山』に引っ越すご予定は?」
「残念ながら今のところは。そもそも『フルール葉山』にはペントハウスがないので。立地的に都心に近いここに住んでいますが、葉山もいいところですよね。海が近くて」
「そうなんですけど、横浜とはまた違って田舎なんですよね。美蘭は葉山に住んでますけど、私はやっぱり東京を離れられなくて。葉山のアトリエには都内から通勤しています」
「そうでしたか」

高良は顔を上げると、なぜだかじっと美蘭を見つめ始めた。
真顔でロックオンされ、美蘭はヒクッと固まる。
イケメンの直視は凄まじい威力だった。

「あの、新海さん? 考え事でしたら、天井を見上げながらは……いかがでしょうか」
「え? ああ、失礼」

ようやく高良は視線をそらす。
美蘭は、ふうと息をついた。
だがすぐにまた高良が顔を上げる。

「白石さんは、どうして葉山に? もともと出身が葉山なのですか?」
「いえ、実家は都内です。『フルール葉山』と提携させていただくことになり、アトリエを兼ねて葉山にアパートを借りて引っ越しました」
「なるほど。ですが、こう言ってはアレだが、どうして『フルール葉山』と提携してくださったんですか? 他にも色んな誘いがあったとうかがってますが」
「それは……。『フルール葉山』が私の原点だからです」

え?と、高良は驚いたように手を止める。

「あなたの原点、ですか?」
「はい。10歳の時に『フルール葉山』で見た光景が忘れられなくて。大階段でブライダルフォトを撮影していたんですけど、ウェディングドレスが素敵で、おとぎの国のお姫様かと思いました。初めてプリンセスに会えたって嬉しくて、ずっと目に焼きついて離れなかったんです。そのうちに、いつか自分の作ったドレスで女の子達をプリンセスにしたいって思うようになりました。今でも『フルール葉山』の大階段で、花嫁様が私のドレスを着て幸せそうな笑顔を浮かべているのを見ると、胸がいっぱいになります。それほど大切な場所なんです、私にとって『フルール葉山』は」

話し終わっても、高良は目を見開いたままだった。

「あの、新海さん?」

ハッとしたように高良が表情を変える。

「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」

それ切りなにかを考え始めた高良に、美蘭は未散と顔を見合わせて首をひねった。
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