解けない魔法を このキスで
「白石さん!」

5日後の土曜日。
花嫁の来店時間よりも早くブライダルサロンに顔を出した高良は、ドアを開けて入って来た美蘭に思わず声を上げて近づいた。

「新海さん、おはようございます。今日もよろしくお願いいたします」

にっこりと笑いかけてくれる美蘭に、ずっとくすぶっていた暗い気持ちが一気に晴れたような気分になる。

「おはよう。体調は大丈夫か?」

すると美蘭は「え?」と首をかしげた。

「あ、もしかしてご存じでしたか?」
「ああ。ミラノに行ったとフルールの支配人から聞いた」
「そうなんです。これ、よろしければ皆様でどうぞ」

そう言って、受付にいたプランナーにお菓子の紙袋を差し出す。

「わあ、ありがとうございます! イタリアのお土産ですか? 早速あとでいただきますね」

嬉しそうにプランナーがバックオフィスにお菓子を置きに行き、二人きりになったところで高良は切り出した。

「白石さん、今日の仕事終わりに少し話をさせてもらえないだろうか?」
「え? はい、構いませんが。どんなお話でしょう?」
「詳しいことはあとで」
「分かりました。よろしくお願いします」
「こちらこそ。それじゃあ」

軽く手を挙げてから、高良は一旦執務室に戻り、仕事を片づけていく。
何度も時計に目をやり、時間を見計らってブライダルサロンに戻った。

今日の花嫁は披露宴でのお色直しにも、ソルシエールのカラードレスを選んでおり、美蘭もお開きまで立ち会うはずだ。

少し早めに戻ったせいか、サロンにはまだ美蘭の姿は見えず、今度は披露宴会場に行ってみる。

ちょうどお開きになったところらしく、ゲストにドラジェを手渡しながら見送っている花嫁の近くに美蘭がひざまずき、時折トレーンを整えていた。

高良はスタッフの撤収作業を手伝いつつ、美蘭から目を離さない。
ようやく最後のゲストを見送り、美蘭は花嫁に「お疲れ様でした」と声をかけて、控え室へと促す。

長いトレーンをさばいて笑顔で花嫁と去って行く美蘭の後ろ姿に、高良はしばし見とれていた。
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