解けない魔法を このキスで
おとぎ話のお姫様は……
「ん……」

2時間ほど経った頃、美蘭が小さく身じろぎしてから、ゆっくりと目を開けた。

「……え? ええ!?」

驚いたように身体を起こし、辺りを見渡している。
高良は立ち上がると、ソファに歩み寄った。

「おはよう。よく眠れた?」
「新海さん? えっ、もしかして私、あのまま?」
「ああ。一瞬で寝落ちしてた」
「すみません! 私ったら……」
「いや、眠れて良かった。少しは身体もラクになった?」
「はい、スッキリしました」

美蘭の元気な口調に、高良も安心する。

「ちょうど頃合いだし、夕食にしよう。アルコールは?」
「いえいえ、とんでもない」
「そうだな、今日はやめておいた方がいい」

高良は内線電話で夕食を頼むと、美蘭をダイニングテーブルに促した。

ノンアルコールのシャンパンで乾杯してから、まずはゆっくりと食事を味わう。
だがテーブルに並ぶフランス料理に、高良は急にハッとした。

「ごめん。もしかして和食の方が良かったか? ミラノにいる間は洋食ばかりだっただろう」

なぜ今まで考えが及ばなかったのだと自分を責めていると、美蘭は明るく笑って首を振る。

「いいえ。私、そういうのは全然気にしないんです。たまにいるでしょう? 海外旅行にレトルトのご飯とか味噌汁を持って行く人。私は逆にそれがだめで。その時にそこでしか食べられないものを食べるのが楽しみなんです。今は、新海さんと一緒にこうやって美味しいフランス料理を食べられるのが、とっても嬉しいです」

そう言ってにっこり笑い、また美味しそうにスープを口にする美蘭に、高良は胸の奥がジンとしびれた。
言葉もなく、ただ美蘭に見惚れる。
好きで好きでどうしようもなく気持ちが溢れそうになった。
< 54 / 91 >

この作品をシェア

pagetop