解けない魔法を このキスで


美蘭は花嫁をフィッティングルームに連れて行くと、ドレスを試着してもらう。
聞いていた通り、背中のファスナーは半分も閉まらない。
ベールやリボンなどで隠せるレベルではなかった。

(後身頃は解体して作り直しね。布を足してから、ファスナーではなく伸縮性のあるリボンで編み上げにして、なるべくデザインが崩れないように……)

いつも持ち歩いている裁縫道具が入ったバッグからメジャーを取り出すと、素早くサイズを測ってメモを取りつつ、まち針を打っていく。

「花嫁様。背中のデザインですが、こんなふうに編み上げるタイプでもよろしいですか?」

従来通りファスナーにしてもいいのだが、リボンで編み上げた方が体型をカバー出来る。
そう思い、タブレットでデザイン画を見せながらさり気なく聞いてみた。

「わあ、可愛い! こっちの方がいいです」

花嫁は先ほどまでとは打って変わり、満面の笑みを浮かべる。
美蘭も微笑んで頷いた。

「かしこまりました。ではそのようにいたしますね」
「え、作り変えるんですか? 挙式は明日なのに、間に合いますか?」
「はい、お任せください。これからすぐに取りかかります」
「本当に? ありがとうございます!」

花嫁が抱きついてきて、美蘭もそっと背中に手を回す。

「明日、素晴らしい結婚式になりますように、心を込めて作らせていただきますね」
「ありがとう……、本当に」

涙で言葉を詰まらせる花嫁の背中を、美蘭は優しくさすった。
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