解けない魔法を このキスで
魔法のような
ホテルに戻ると、美蘭はドレスのまま高良とテラスに出て、ミラノでの最後の夜景をしんみりと眺めた。

「楽しかったなあ、ミラノ。夢みたいな時間だった」
「ああ、そうだな」
「高良さん、本当にありがとう。飛行機もこのホテルも、全部私と未散ちゃんの為に手配してくれたんでしょう?」
「いや、俺がそうしたかっただけだ」
「ふふっ、高良さんらしいセリフ。でも本当にありがとうございました。とっても幸せな時間になりました」
「どういたしまして」

美蘭に笑いかけてまた景色を眺め始めた高良は、やがてなにかをじっと考えるように月を見つめ始めた。

「高良さん? どうかした?」

見上げて尋ねると、高良は美蘭の手を取り、そっとソファに座らせた。
美蘭のブルーのドレスがふわりと広がる。
高良はその前にひざまずいた。

(えっ?)

なにごとかと驚く美蘭に、高良はポケットから取り出したリングケースを開いて見せる。
月明かりに照らされ、まるで一等星のように輝くダイヤモンドの指輪に、美蘭はハッと息を呑んだ。

「美蘭」
「……はい」

震える声で返事をすると、高良は真っ直ぐに美蘭を見つめた。

「17年前、まだ小さかった君の言葉で、俺は自分の夢を見つけることが出来た。今の俺があるのは、あの時の小さな君のおかげだ。『さめない夢が叶う場所』素敵な言葉をくれてありがとう、美蘭」
「高良さん……」
「夢の次に幸せを見つけられたのは、もう一度会えた君のおかげだ。心の中でずっと葉山を大切にしてくれて、あの場所でまた俺と出逢ってくれて、ありがとう」

美蘭の目に涙が込み上げてきた。
懸命にこらえて、高良を見つめる。

「女の子を自分のドレスでプリンセスにしたいと願った、心優しい美蘭。その願いを夢に変えて、君は自分の力で見事にその夢を叶えてみせた。次は美蘭がプリンセスになる番だ。そしてその夢を、俺に叶えさせてほしい。美蘭、俺と結婚してくれ」

遂に美蘭の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。

「高良さん、私……。私の方こそ、あなたに感謝しています。まだ10歳だった私の言葉を覚えていてくれてありがとう。ずっとずっと、17年間もその言葉を大切にしてくれてありがとう。また私とあの場所で出逢ってくれて、ありがとう。いつも優しく抱きしめて、たくさんの愛で包んでくれてありがとう。あなたは私のたった一人の運命の人。これからもずっとあなたのそばにいたいです。高良さん、私と結婚してください」

高良は愛おしそうに美蘭に微笑み、そっとその涙を指先で拭う。

「ああ。結婚しよう、美蘭」

そして美蘭の左手を取ると、薬指にゆっくりと指輪をはめた。

「なんて綺麗……」

思わず呟くと、高良は美蘭の両手を大きな手で包み込む。
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