素直になれないふたり
 震える両手で肩を抱かれ、ほんの一瞬、唇が重なったのを感じた。
 そっと目を開けると、
「情けない男だと思われるかもしれないけど、俺にはここまでがやっとだよ。なんだか⋯⋯申し訳なくて」
 申し訳ないという意味が、その時の私にはわからなかった。
「どうして?」
「なんて言ったらいいのかな⋯⋯トーコとは、もっと違う形で出会いたかった」
 それは単に、ナンパではない出会い方がよかったという意味なのかと思っていた。
 翌日までは。
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