素直になれないふたり
 悶々としながら、いつも通り管を巻いていたところ、ジローが私の前にカシスソーダを差し出す。
「頼んでないわよ?」
「これ⋯⋯あちらのお客様から」
 ジローの視線の先を振り向くと、サングラスをかけた男性が居た。店内は薄暗いのに。
 彼は、こちらへ歩いてきて、
「隣の席、いいですか?」
 リアクションに困ったが、どうぞと答える。
「あらわになった背中が綺麗だなと思って、見惚れてたんですよ。でも、振り向いた顔はもっと綺麗でした」
「はぁ⋯⋯それはどうもありがとうございます」
 彼は、そっとサングラスを外した。
 驚きのあまり、思わず声をあげそうになる。
「知ってるんだ?俺のこと」
 知っているも何も、彼は若くしてトップクラスのギタリストになったバッカスではないか!
 ジローも、露骨な驚き方こそしていないが、つぶらな瞳がいつも以上に真ん丸く見開かれている。
「何をしてる人?モデルさんかな?」
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