素直になれないふたり
「いえ、まさかそんな⋯⋯」
 芸能人と話すのは初めてではないが、ここまでの大物にプライベートで声をかけられるのは初めてのことだった。
 バッカスは、これでもかというほど、私のことを褒めて褒めて褒めちぎり、最初は嘘くさいと思ったのに、次第にいい気分になってきた。
「また会いたいな。連絡先、交換してくれる?」
「はい!」
 1オクターブ高い声でそう答えてしまった。
 バッカスは、私の会計も一緒に済ませ、先に店を出て行った。
「ちょっとちょっと!今のは何?ドッキリとかじゃないよね?この店、芸能人が出入りするなんて知らなかった!」
「いや⋯⋯実は俺も驚いたよ。いつも、地元の常連さんばっかりだし、芸能人なんて来たことないから」
 バッカスに渡されたメモを見つめながら、
「私って、もしかして、芸能人から見ると彼女にしたいタイプだったりするのかな⋯⋯?」
「どうだろね。俺は芸能人じゃないから」
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